嘘とワンダーランド
「課長、ここは居酒屋ですよ」

バシバシと課長の腕をたたいて解放を求めるわたしだが、彼の腕はわたしを離そうとしない。

いくら夫婦だからとは言え、人前でされるのは恥ずかしいにも程がある。

独占欲が強いにも程があるね。

大半は呆れているけれど、同僚たちの視線が痛い…。

その視線に対して、すっかりなれてしまっている自分が恐ろしい。

「そんなことする訳ないじゃないですか。

第一、若菜は課長の奥さんなんですし」

そう言った京やんに、
「本当かー?

お前には前科があるから、どうも信用できねーなあ」

ジロリと、課長は眼鏡越しから京やんをにらんだ。

「だから、しませんってばー」

情けない声を出した京やんに、課長はゲラゲラと笑った。
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