アクシペクトラム

どうも、ホワイトタイガー便です

私は白羽くんが書いた番号に電話を掛ける。
「――カオリさん?」
2回の呼び出しですぐに声が聞こえた。
どうして私だってわかたんだろ…
「…うん」
「荷物だよね、もう家にいるの?」
明るい声に混じってがやがやとした声や、トラックのエンジン音もする。
恐らくすでに配達を終えて本部にでも戻ったのだろう。
「あの、もう時間外だってわかってるんだけど、どうしても今日中に受け取れって言われて…」
「いいよ、1時間後くらいになるけど大丈夫?」
「うん、…よろしくお願いします」
「りょーかーい」
1時間か、白羽くんが来るまで何しよう…
部屋着に着替えるわけにもいかないし、お風呂に入るのはもっとダメだ。
そもそも荷物を持ってくるだけなのだから、別に気にする必要はないのではないか。
いやいや、でも…
そうだ、母からの荷物が届くのだから、冷蔵庫の中を整理しておこう。
ついでに晩御飯を作っていれば1時間くらいたつだろう。
私はとりあえず上着だけを脱ぎ、シャツの袖を捲って冷蔵庫の中身を整理することにした。

ピンポーン…
冷蔵庫にあったもので晩御飯を作り終えたとき、ちょうどインターホンが鳴った。
「はい」
「どうも、ホワイトタイガー便です。…なんてね」
ドアカメラ越しに白羽くんが笑い掛ける。
普通に、普通に出ればいいのよ…
私は一度、深く息を吐いてからドアを開ける。
「どうもありがとう…ってどうしたの?!」
ドアの向こう側にいた白羽くんを見て、私は息を呑んだ。
白羽くんが私服なのもそうだが、上から下まで、なぜか水を被ったかのように服がびしょ濡れだった。
「急に降ってきちゃって…でも、荷物はビニール掛けてたから大丈夫」
前髪の先からぽたりと滴が落ちる。
部屋にいて気がつかなかったが、いつの間にか外は雨がかなり強く降っていた。
「とにかく入って」
「え、でも…」
「いいから!」
躊躇する白羽くんを、私は荷物ごと部屋に引き入れた。

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