アクシペクトラム

雨と部屋と白羽くん

ゴゥンゴゥンという乾燥機の音に混じって、シャワーを浴びる音がドアの向こうから聞こえる。
こんな事になるとは思わず、私はクローゼットの中を探っていた。
「着れそうなのあるかなぁ…」
白羽くんの衣服は上から下までぐっしょりで、それらは全て乾燥機にまわした。
私のせいで風邪をひかれるのは嫌だったので、雨で冷えた身体を温めてもらおうとシャワーを貸すことにした。
そう、白羽くんは現在、熱いシャワーを浴びている。
どうして天気予報を見てなかったのだろう。もっと早くに連絡をしていたら…いや、それよりも母からの荷物を別の日にしておけば良かった。
まさか荷物を持ったまま走って来るとは…てっきり配達の車で来ると思い込んでいた。
とにかく、雨でずぶ濡れになった白羽くんをそのまま放っておく事ができなかった。
もとはと言えば、私が再配達のお願いをしたのが原因だし…
自然とため息が出る。
元カレの服でもあれば役に立つのに、あいにく私は別れた後はそういう物は全て処分するタイプだ。
男物の服なんてどこを探しても見つかる気配がない。
どうしようか、乾燥機が終わるまでまだまだかかりそうだ。

「俺、このままでいいんだけど」
「きゃっ!」
突然聞こえた声に、肩がびくりと跳ね上がった。
振り返ると、上半身は裸でバスタオルを腰に巻いた白羽くんが立っていた。
「そ、そんな、格好で出てこないでっ」
慌てて視界を手で隠して目を逸らすと、白羽くんがくすくすと笑う。
「そんな赤くなんないでよ。大丈夫だって、パンツは穿いてるし」
「そういう問題じゃなくてっ…」
「じゃぁどういう問題?」
その肉体が問題なんだってばっ…!
さっき一瞬だけ見えた上半身は、細身なのに綺麗に筋肉がついていた。
配達員なだけあってやっぱり逞しい体つきをしている。
恋愛小説で裸を妄想することは慣れているが、すっかりそういう事がごぶさたな私にとって、3Dの裸は久々すぎて直視できなかった。
「い、いま着替え探してるから向こうで待ってて」
「ねぇ、カオリさん」
いつの間に側にいたのか、横から白羽くんに顔を覗きこまれる。
簡単にデートに誘ったり手を繋いだり、言ってる事とやってる事は軽いのに、近くで見た白羽くんの瞳は澄んでいて綺麗だった。
「俺のこと、意識してんの?」
ひどく甘い声が耳元で囁かれる。
「っ!!」
「…耳まで真っ赤だね」
白羽くんの指がゆっくりと私の耳に触れた。

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