人魚皇子
星の大部分を支配した気でいる,人間という生き物の基準では,未だに認知されない種族,人魚.
目に見える景色だけが,存在区域という訳ではないことを,何年たっても理解出来ないらしい.
ディリアナ帝第6子ヴァイン・シュ・ディサルチア.
18歳.
迷う事なく,あからさまな人魚.

彼,ヴァインは,輝くようなハニーブロンドと,淡いすみれ色の尾,そして博愛とは程遠い冷たさを放つ白銀の瞳を持った,第6位王位継承者だ.
そんなヴァインの父,ディリアナ陛下の政治への執着ぶりは,どんな革命家よりも熱く,母であるニーシェスカ王妃の愛情は,長子バルサテラ殿下以外の子供達に向けられる事はなかった.
哀れヴァインは,ニーシェスカ王妃を覚えていない.
生まれてすぐ乳母に預けられ,何不自由なく18年過ごした彼は,愛情に欠け,優しさを持つ事を覚えられないまま育ってしまった.
高貴な身には暖かみがなく,手には無駄に上等な武器が握られ,尾はその動きからは信じられない程の,スピードを叩き出す.

友人など,誰もいなかった.

「エジュアル兄さま…」

決意を固めた18歳の2月19日,ヴァインは生まれ育った城を後にした.
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