イジワル上司の甘い求愛
「かんぱーい!!」

主催者の乾杯の音頭が声高らかに響き渡ると、グラスの乾いた音があちこちから聞こえてきた。


出席者の大半が野球部OBという立食パーティー。女性はというと会場をざっと見渡しても1割程度らしい。


「あっ、もしかしてチャキ?」

本多先生にかなえちゃんとお祝いの挨拶をして、会場の隅でスタッフから注文したドリンクを渡してもらった時に背中から声をかけられた。


東京では、浦島さんにしか呼ばれなかった『チャキ』というニックネーム。

『チャキ』と言われただけでドキドキして、私だけが特別だと思わせてくれた言葉だったのに。

地元に帰ってみたら、みんなが私のことを当たり前のように『チャキ』と呼ぶ。


うん、多分。あれは浦島さんの特別扱いでも、胸きゅんさせる魔法の言葉でもなかったんだって、ここに来て改めて思い知った気がした。

東京にいることも胸が苦しくって仕方ないのに。

地元に帰ってきても、浦島さんとの思い出が蘇って心のささくれが痛みを感じてる。


浦島さんとの思い出のないところを、私は知らないのかもしれない。


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