イジワル上司の甘い求愛
「ため息の原因はそれね。営業部も部長が異動って決まって、午前中バタバタしてた」

午前中の出来事を重たい溜息とともに喋った私に、梨沙はお茶を一口飲むと妙に納得した様子で答える。

来月から始動っていっても、今月だってもう半分以上が過ぎてしまっている。

残り10日で引継ぎしなきゃいけないから、午前中はきっとどこの部署だって慌ただしかったことくらい想像できる。


自分だけが大変になるわけじゃないことくらい分かっているのに、なんだか腑に落ちないのは、あの一大プロジェクトを『犬猿の仲』と言われている浦島さんから引き継がないといけないっていうことのせいだ。


浦島さんだって残り10日で、残務整理と他に抱えている業務の引継ぎだってあるんだから私にばかり構ってなんていられない。


ううん、そもそも私と浦島さんの間には『犬猿の仲』と呼ばれてしまうほどの距離があるのだから、スムーズに引継ぎが出来るなんて思えない。


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