なつの色、きみの声。
『いつでも空いてるから。決めたら連絡して』
「そうた」
『ごめん、話せるって言ったけど、切るよ』
碧汰はわたしの返事を待たずに通話を切った。
スマホの画面には、通話時間8分と表示されている。
心の内なんて告げずに、碧汰が話してくれると言っていたことに甘えたらよかった。
きっと、風邪から気が紛れるような何てことない日常の話を聞かせてくれただろうに。
布団から離れたところに置いてあるクッションに向かって、スマホを放り投げる。
体ごと背けるように窓の方に寝返りを打つと、カーテンの隙間から射す採光にくらっと目眩がした。
ぬるくなった冷却シートを布団に寝そべったまま交換する。
昔、おばあちゃんの家で熱を出すと、大人用の冷却シートをわたしの額のサイズに切って貼ってくれたことを思い出す。
ひやっとした感覚が全身を駆け巡るのが苦手で、駄々をこねては大した抵抗もできずにぺたっと貼り付けられていた。
懐かしい思い出。
欠片のように、夏の出来事に散らばったそれを、今は受け止めたくないと思ってしまう。
じわりと目に浮かぶ涙を堪えるように、窓から射し込む光から逃れるように、タオルを目元に押し当てる。
会いに来て。
そう言った碧汰の声が、耳から離れなかった。