なつの色、きみの声。
『海琴』
わたしの気持ちが高ぶるとき、碧汰はいつも冷静だ。
喉の奥に迫り上がる想いを、音を鳴らして飲み込む。
『海琴?』
碧汰には美奈希さんがいる。
わたしがいたかったその場所に。
奪いたいわけじゃない。
取り合って、勝ち負けみたいに碧汰の隣にいたいんじゃない。
でも、わたしも好きなの。
碧汰のことが、ずっと、好きなの。
伝えてはいけないのに、伝えたら、きっと変わってしまうのに。
「……すき。ずっと、好きで、今も……好き」
あれだけ外に出たがっていたのに、いざ口にしたら頭がさっと冷たくなって、後悔の波が押し寄せる。
耳元に置いたスマホから、碧汰が息を飲む音が聞こえた。
長い沈黙を、窓の向こうとスマホの向こうでセミの鳴き声が埋めていた。
やがて、碧汰が低い声で呟く。
『……なあ、海琴。もう一度だけ……』
「……ん」
『会いに来て。それで、直接聞きたい。ちゃんと、返事をさせてほしい』
なにそれ。
返事はわかりきっているし、碧汰だって返事はひとつしかないはず。
それなのに、もう一度会いに行って、直接気持ちを伝えるなんて、ひどいことを言う。
「それなら……」
せめて、大宮くんと一緒に。
『ひとりで来て』
言いかけたわたしの声を、碧汰が即座に遮る。
何を言おうとしていたのか、わかっていたみたいに。
『海琴と一緒にいるやつなんか、見たくない』
「一緒にって、大宮くんは……友だちだよ」
『それでも、嫌なんだよ』
どうして? と聞けなかった。
この通話の向こうで、碧汰が辛そうにしているように、思えたから。