なつの色、きみの声。
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八月の前半は上り坂、後半は下り坂。
そんな風に、誰かが言っていた。
九月になったって急に秋めくわけではないのに、八月が終わりに近付くと夏が終わってしまうと錯覚する。
初夏の頃の訪れを待ち侘びる高揚も、終わりが見えると手を伸ばして引き留めたくなる焦らしさも、夏特有のものだ。
冬こそ別れ季節だとか、わけもなく切なくなると言うけれど、わたしはそう感じたことがない。
だって、わたしにとっての別れは夏の出来事だったから。
最後の夏に覆われて、忘れかけていた、それ以前の夏の終わりを思い出す。
お互いの家を行き来して、泊まることもあったのに、最後の晩だけは碧汰は一緒にいようとしなかった。
最後の一日は、朝早くに海に行って、お母さんが来るまでの時間をおばあちゃんの家で静かに過ごす。
赤く腫らした目はお互い様で、だから、わたしも碧汰も何も言わなかった。言えなかった。
さようならは言わずに、また来年と握ってくれる手のぬくもりを、自分の手にのせて、わたしはあの町を去っていった。
目に見えない雪のように溶けて、感触を忘れても、時折そこにあったぬくもりを思い出していた。
熱が下がったあと、たくさん考えた。
もう会わない方がいいんじゃないかって。
後悔するって、きっと泣くって、わかってる。
それなのに、遠い夏の記憶が後押しするように手のひらにのって、碧汰に会いにいくと返事をしていた。