なつの色、きみの声。
この間は隣に大宮くんがいたけれど、今日はひとりだ。
電車の窓の外を見ながら、間が良いのか悪いのか、昨日『最近どうだ』と声をかけてくれた大宮くんのことを思い出す。
大宮くんは碧汰に会いに行った日以降、その話題を出さなかった。
碧汰と通話をしたことも伝えていないから、今日のことは知らない。
これ以上、大宮くんに甘えてはいけないと思うし、碧汰にひとりで来てと言われたことも覚えている。
着く前から帰り道のことを考えて、気持ちは暗鬱としていた。
ずっと、たどり着かなかったらいいのにと心の隅で考えていたけれど、もう間もなく目的の駅に着くというところで、碧汰から『着いた』とメッセージが届いた。
改札を出て、碧汰がそこにいることはわかっていたのに、姿を見つけると反射的に飛び跳ねる鼓動が今は苦しくてたまらない。
「海琴」
駅で電車を降りたのはわたしだけで、駅前を行き交う人もいない。
「おはよう」
「……おはよう」
気まずいと感じているのはわたしだけなのか、碧汰は普段と変わらなかった。
普段といっても、今の姿になって碧汰と会うのは二度目だけれど。
ひらっと手を振って近くに来た碧汰の顔を真っ直ぐに見ることができたのは、目と目が合うまでにひとつ壁を挟むから。
「碧汰、その眼鏡……」
前にもかけていたカラーレンズの眼鏡。
一見サングラスに見えるそれは、度が入っていた。
以前、眩しいからと言っていたのが気になって、調べてみたのだけれど、これは遮光眼鏡というらしい。
一抹の不安が過ぎって、それが顔に出ていたらしい。
碧汰は困ったように笑って、眼鏡を外した。
「……眩しいんだ」
碧汰は太陽を指差して、顔もそちらに向ける。
伏し目がちに太陽を見ようとして、ぐっと眉根を寄せた。
「そ、碧汰! いいよ、見なくて」
「ん、ごめん……大丈夫」
全然、大丈夫そうには見えない。
碧汰がどうして太陽を見ようとしたのか、言葉で伝えてくれたら済むところを、そうさせてしまったことが申し訳なくて、背中に触れようとした手を寸でのところで止める。
不用意に触れてはいけないことを、ちゃんと思い出した。
伸ばしかけた手を下ろすとき、碧汰がわたしの指先の行方を目で追っていた気がした。