なつの色、きみの声。
「気分転換になればいいなと思って連れてきた。さっきより、少しは楽になった?」
「うん……すごいね、中山くん」
「いや、すごくはないんだよな」
ほんの一瞬、表情を曇らせた中山くんは、すぐに話をすり替えた。
「セミってさ、土の中に十年以上いる種類もあるんだって知ってた?」
「そんなに長いのもいるんだね」
「俺たちより年上のセミもいるらしいよ。俺、それ知ったとき感動したんだ。それだけ長く土の中にいて、外に出てこられたとき、どんな気持ちだろうって」
セミの声を聞きながら、セミについてを語る。
昔、碧汰と話したことを思い出して、切なさにきゅうっと胸を締め付けられながら、中山くんの話に耳を傾ける。
「他の虫や人間って天敵がいて、過酷かもしれないけどさ、暗い世界から飛び出して、光があるって、そんなの生まれて一番の実感だと思わないか」
「実感……」
「生きてる意味、見つけるみたいな」
陰った場所にいる自分自身に、光が射したような心地になる。
どくっと心臓がやけに大きく弾んだ。
わたしは人だから、初めて光を見たときの気持ちなんて覚えていないし、思い出せない。
ただ、自分にとっての光のような人ならずっと、心の中に、そこに、いたから。
「……海琴?」
中山くんがわたしを呼ぶのも構わずに、両手で顔を覆う。
静かに、涙を流した。
そうして、思う。
伝えても、離れきれずに心に住む碧汰への想いの行き場を、どうか、誰か。
教えて。