なつの色、きみの声。
「今は一緒じゃないんだね」
「天斗は学校に残ってるよ。バイトの時間まで自習してるって」
「中山……くんは?」
「俺は無理。そんな頭使ってられない」
大宮くんと同じ進学校の生徒なら、きっとわたしよりも頭はいいのだろう。
普段大宮くんを相手にしていると冷たくあしらわれることも多く、相対した中山くんの親しみやすい雰囲気に気が緩む。
「海琴って呼んでいい? 俺、堅苦しいの苦手でさ」
「うん、大丈夫」
「ありがとう。ついでに、ちょっと付き合わない?」
突然の提案に目を瞬く。
いつもなら、初対面の人とはこんなに打ち解けないし、誘われても断っていたと思う。
ただ、今は気が紛れることがある方が都合がよかった。
頷くと、中山くんは来た道を戻り始めた。
少し距離を開けて、後ろをついて行く。
砂場とブランコしかない小さな公園に入ると、中山くんは一度ベンチに荷物を置いて公園の外に出ていく。
程なくして戻ってきた中山くんの手にはスポーツドリンクのペットボトルが二本。
ひとつをわたしに手渡してくれた。
「ありがとう」
「んーん、俺が付き合わせたし」
「どこか行きたい場所があったわけじゃないんだね」
間接的に知り合っていたとはいえ、目的もないのにここに来たように思える中山くんに問いかけると、半分ほど飲んだペットボトルを揺すりながら、あー、と言葉を濁した。
「これは別に、真面目に聞かなくていいんだけどさ……さっき声をかけたとき、海琴の様子が気になって」
「どういうこと?」
「昔から、今放っていたら駄目だなとか、見かけは変わらないけどいつもと違うなとか、そういうことに気付きやすくて」
「……なにそれ」
疑うつもりは全くなくて、もしも本当にその些細な機微に気付いたのだとしたら、初対面のわたしよりも親しい人が相手なら心まで読めてしまうのではないかと思う。