なつの色、きみの声。
在来線で一時間ほど行った場所の駅を降りて、徒歩十分ほど歩くと海沿いの道路に面した大きな建物が見えてくる。
正面玄関を入ると、民宿のおじさんとおばさんが迎え入れてくれた。
「美衣、海琴ちゃん、いらっしゃい。そちらは美衣が言ってた子たちね」
おばさんに声をかけられると、大宮くんと中山くんは揃って頭を下げた。
「はい。大宮です。突然のお願いを聞いていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」
「中山です。気合いと体力だけは有り余ってます! どうぞよろしくお願いします!」
丁寧に挨拶をする大宮くんと、とにかく元気な中山くんに、おばさんは頼りになるわと微笑んで、部屋に案内してくれる。
客室とは離れた棟に男女で分かれて使えるように二部屋用意されていた。
仕事の内容を確認して、本格的に手伝いに入るのは明日から。
今日のところは夕方に外回りの掃き掃除と大浴場の清掃を教えてもらうことになり、それまでは自由時間。
美衣と使う八畳の和室で荷解きをする。
「美衣、ごめんね。二人もついてくることになって」
「大丈夫だよ。噂の大宮くんにも会えたしね」
「噂って……」
バイト先に同級生がいることを話したことがあって、美衣は大宮くんを知っている。
どんな人なの? と興味津々に聞かれても、答えられることなんて多くなくてすぐに興味を失くしていたけれど、こうして直接会うことになって美衣はどこか含みのある笑みを浮かべていた。
「それに、中山くんも面白いよ」
「美衣と電車の中でずっと話してたもんね」
「大宮くんは着くまで寝てたけどね」
美衣に申し訳ない気持ちがあったけれど、気にしていない様子にほっとする。
海辺に近い建物だけれど、窓の外は裏手の山と駐車場しか見えない。
日が落ちるまではしばらく時間がある。
この辺りを散策に出てもいいかもしれないと思いながらも、外の暑さを考えると動き出す気になれなかった。
畳に寝転がってテレビのチャンネルをいじっていると、部屋のドアがノックされた。
美衣が返事をすると、外からドアが空いて中山くんが顔を出す。
「なあ、海に行かない? 夕方には仕事教わるなら今のうちだろ?」
「うん、いいよ」
「天斗も連れてくる。玄関集合で」
言うが早いか、中山くんは大宮くんを呼びに隣の部屋に戻っていく。
「海琴も行くでしょ?」
「ええ……だって、砂浜……」
「砂浜が、何?」
熱いじゃん、と言おうとして、口を噤む。
ふとしたときに、どうしてもまだ、碧汰の顔がちらつく。
「ううん、何でもない。行こう」
美衣にバレないように奥歯を噛んで、頷いた。