なつの色、きみの声。
「今更だけど、本当にいいの? これから行くところは美衣の親戚の民宿で、遊びじゃないからね」
バイト代も発生する、れっきとした民宿の手伝い。
海辺の民宿で夏の終わりにゆっくりくつろぐことを想像しているのなら、期待を裏切ることになる。
ついて行くと大宮くんが言い出したときに一度説明はしたけれど、もう一度確認の意味も込めて伝える。
心底深いため息をついた大宮くんは、何度も言わせるなと言いたげな顔をするけれど、向こうについてから文句を言われても困るから。
それに、近くにいる美衣との会話を聞いていると、中山くんにろくに説明していなかったんじゃないかと思う。
「中山くんにちゃんと説明してないでしょ」
「勝手についてきただけだからな」
「ああもう、大宮くんのバ……言葉足らず」
「バカって言いかけたな」
途中で飲み込んだにも関わらず、しっかりと拾われたようで、大宮くんに額を指で弾かれた。
バチッと嫌な音が聞こえて呻いていると、大宮くんは時間を確認してから立ち上がり、荷物を置いてトイレの方へ行ってしまった。
これから行く美衣の親戚が営んでいる民宿は、去年遊びで泊まったときにお礼で仕事を手伝ったことがある。
今年は民宿近くを流れる川の護岸工事の作業員と、毎年他県からやって来る部活生の宿泊期間が被り、人が足りないとのことで短期バイトとして夏前に声をかけてもらっていた。
美衣に聞いてもらったら、人手が増えるのは寧ろ助かるとの返事で、急遽大宮くんと中山くんの参加も了承してもらっている。