強引上司の溺愛トラップ
俺は、その男を見てつい、固まる。

その男も、俺を見て同じように固まっていた。
この男も、俺のことを「誰」と思っているんだろう。



…てか、マジでこの男、誰。

迎えに来るって、お母さんじゃなかったのかよ。

この長い前髪と分厚い眼鏡の女に彼氏なんていないって決め付けていたけど、こんな時間にわざわざ車で迎えに来るって、どう考えても彼氏じゃ……?


「佐菜の会社の上司さんですか?」

俺が色々考えていると、男の方から俺にそう尋ねてきた。


「そう、ですけど」

「初めまして。もしかして、新しく異動してこられたっていう課長さんですか? 妹がご迷惑お掛けしました!」



妹……?




妹!


渡辺の兄か!そ、そうか、そうだよな!



「……いえ。こちらこそ、たくさん飲ませてしまったみたいで、申し訳ありません」

安堵でテンションの上がった心の内を悟られないように、あくまで冷静にそう返した。



「佐菜ちゃーん、上司さんに迷惑掛けちゃダメでしょー」

「んんんー」

寝ぼけてグズる渡辺を、何とか兄に預けられたので、「それじゃあ」と兄に告げ、俺は帰ろうとする。だが、


「家、この辺なんですか?」

と、不意に兄に呼び止められた。
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