水曜日の片想い
「おい」
「は、はい!?」
ぼんやりと心をつかまれているうちにいつの間にか橘くんはわたしから離れて、倒れている本棚に手を付いていた。
「本棚戻したいから手伝ってほしいんだけど」
「あ、はい!」
さっきまで感じていた橘くんの熱はいったいどこに飛んでいってしまったんだろう。
噂で聞いたままの冷たい橘くんに戻っている。
でも……。
そんな冷たい言い方にもドキドキしてしまう自分がいる。
なんだか胸の奥がムズムズして落ち着かないや。
本棚を元の場所に戻した後は、床に散らばった本の片付け。
橘くんは何も言わずに黙々と本棚に本を戻している。
「その……倒しちゃってごめんなさい………」
いくら橘くんが図書委員とはいえ、ほぼ初対面の人にこんなに迷惑をかけてしまうのなんて。
声は震えるし、泣きそうだし、今更謝ってもあまり意味がないような気もする。
それでも悪いのは完全にわたしだし、なんなら土下座したっていいくらいで…………。
「ここの本棚倒れやすくなってたんだよ。先に言わなくて俺の方こそごめん」
「え、ごめんって………」
どうして橘くんまで謝るの。
「先生に直して欲しいとは言ってはあるけど、まだ対応してくれてないんだ」
そんなの、橘くんは悪くないじゃん。