その嘘に踊れ

「…アオ」


「もっかい!」


「アオ」


「もっかい!
お願い!」


「お腹すいた」


ありゃ、打ち止め。

でも、イイよ。

確かに聞いたから。
君の唇が再びその名を紡ぐのを、確かに見たから。

君が、くれた…


「眼球の水分含有量が増した。
まさか、泣く?」


透子の指が、アオに向かってそっと伸びる。

だーかーらぁ。
見透かさないでってば。


「まさかでショ。
お腹がすいて泣いちゃうのは、しーちゃんじゃない?
そー言や、お昼も食いっぱぐれてるもんね。
ナニが食べたい?」


頬に触れた小さな手に自らの手を重ね、アオは幸せそうに微笑んだ。

半分以上姿を隠したアイスブルーの瞳を見据える、全てを飲み込んでしまいそうな黒い瞳。

子供のような態度に油断しちゃダメだ。

彼女は本当に侮れない。

鋭敏な感覚と明瞭な頭脳、ついでに他心通まで装備してンじゃねーかと疑いたくなる、自称『平凡』な危険人物が口を開く…


「ハンバーグ弁当」

< 26 / 291 >

この作品をシェア

pagetop