中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
契約成立しました


『and YOU』編集部の超絶エリート、真塩 裕貴(マシオ ユウキ)を知らない女社員はいない。

高学歴で帰国子女、切れ長の瞳に、陶器の様に綺麗な白い肌。体もほどよい筋肉の付き方で、足首にかけて細くなるスラックスが恐ろしくよく似合う。
透けるとアッシュグレイのような色になる黒髪はため息が出るほど美しく、その髪を耳にかける仕草を見れた日は、興奮してその日の業務に集中できない。

しかし、そんなフェロモン垂れ流しの塩顔イケメン、真塩裕貴先輩には、一度も女関係の噂が流れたことが無い。

尊いどころか、少女漫画の中から間違って出てきてしまった二次元の住人なのかもしれない、と最近女性社員は疑念を抱いている、らしい。

「完璧すぎて怖い」
まだ出会ったこともない『真塩先輩』の話を、私はお昼休憩の殆どを使って熱弁された。
長々とした説明の後、同期の史子は一言やつれ切った表情で、完璧すぎて怖い、と再び呟いた。
オフィスの近くのタイ料理屋さんで、牛肉の出汁が効いたフォーを食べながら、私は『へー、ふーん、ほー』を使い分けながら相槌を打っていた。
このお店はテーブルが狭く、椅子も固い木の椅子で全く座り心地は良くないし、加えて店員さんも決して愛想は良くないけれど、料理が文句なしに美味しい。
同期の長谷川史子とは、このお店に足繁く通っている。

「あそこまで完璧だと、迂闊に近寄れないっていうか……何も仕掛けられないよね。真塩さん上司との飲み会にしか参加しないし」
「サークルで百戦錬磨だったあの史子ですら隙を見つけられないのか……それはすごい」
「どんな感心の仕方してんのよ。ていうか菜々、パクチー臭い!」

史子は長い髪をかき上げて、フォーをずるずると音を立ててすすった。
私達の会社は、アプリやキュレーションサイトの運営を仕事としている。
親会社は大手ゲーム会社なのだけれど、スマホ普及と共に私たちのいる部署が誕生した。
まだ誕生して間もない部署だが、どうやらその真塩さんとやらがいたお陰で、今では親会社の立派な収益の柱の一つとなっている。
私は今年の四月にゲームのディレクター職から、真塩さんがいるライフスタイルアプリ『and YOU』編集部に異動させられた。
キュレーションの要素も兼ね合わせ、信用あるライターと一体となって運営しているこのアプリは、エンタメから美容まで幅広い情報が詰まっている。
乙女ゲームのディレクターとして常に二次元と向き合っていた私にとっては、正直不安要素の多い異動であった。
< 1 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop