中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました

「菜々がうちの部署に来てくれたのは嬉しいけど、うちの部署のカラーはゲームとは全然違うから、服とか気を付けてよね」
「Tシャツ禁止って、私は一体これから何を着れば……」
「カジュアル過ぎ禁止、爪もちゃんと気遣って、ゲームする時間も雑誌読む時間に変えなさいよ」
「待って、死ねってこと?」

部署のカラーが全く違うことは、出勤初日に既に気が付いた。
なんだか常に灰色の空気が漂っていた今までの部署とは違って、空気がとても澄んでいたし、物理的にも部屋が綺麗だったし良い匂いがした。
もっさりとしたエンジニアに囲まれて仕事をしてきた私にとっては、全く居心地の悪い空間であった。

だから、一分でもはやく慣れるために史子に仕事のことを色々聞きたかったのに、九十九パーセント真塩さんの話で終わってしまった。
私は正直、非常に怒っている。真塩だか荒塩だかうす塩だか知らんけど、その人の容姿の情報を得て一体何の役に立つと言うだろうか。

「菜々、あんたもっと中身のある話を聞いて、有意義な時間にしたかったとか思ってるでしょう」
「いやそんな……とんでもなくそう思ってます」
その通りだよ、まさにうんざりしていたよ。しかしこの牛出汁フォー美味しいな。
「いい? この部署は女が多いんだから、誰が一番狙われていて、波風立てないように過ごすにはどうしたらいいのかも考えなきゃならないのよ」
「分かった分かった、とりあえず真塩さんに私情で一切関わらなきゃいいんでしょう?」
「あんた本当に分かってる? 多分真塩さん今日は午前出張で午後出勤だから、この後会えると思うけどくれぐれも……聞いてる!?」

史子がとっても心配してくれているのは分かるけれど、正直今私は真塩さん絡みの人間関係まで気を回す余裕は無かった。
新しい仕事は覚えられるだろうか。仕事仲間とは上手くやって行けるだろうか。一体慣れるまでに、どれくらいの時間と精神力を費やすのだろうか……。
私は、キリキリと痛む胃を摩りながら、タイ料理のお店をあとにした。
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