中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました

* * *

セキュリティー番号を入力して、私は真塩さんのマンションに足を運んでいた。
どうして私は断らなかったんだろう……いざマンションの中へ入ると、自分を責め立てることしかできなかった。
真塩さんの部屋は十二階にあり、エレベーターでゆっくりとその階まであがると、黒いドアが並んでいた。
一番角のドアまで歩き、真塩さんに貰ったキーを差し込むと、ドアはピーという機械音と一緒に、ガチャンと重々しい音を立てて開いた。

「お、お邪魔します……」
誰もいないはずなのに、一応挨拶をして部屋の明かりを点けた。
すると、とんでもなくピカピカな部屋がそこには広がっていた。
壁一面は窓になっており、落ち着いたオリーブ色のカーテンがかかっている。大きな壁掛けテレビの横には、私の身長ほどの高さの観葉植物が置いてある。
テレビの下にある少しアジアンテイストのローボードはとても高級そうで、中にはハイスペックそうなDVDやら音響機器が入っている。
白いフローリングはとんでもなく清潔感があり、髪の毛一本落ちていない。
彼の潔癖症ぶりがこれだけでも十分に伝わり、私は少しぞっとした。
「す、座ってもいいのだろうか……」
とても座り心地のよさそうな、グリーンの足つきソファに腰かけてみたが、全くもって落ち着かない。落ち着けない。
一度前の部署のエンジニアの二階堂君の家で皆で宅飲みをしたことがあったが、彼の家のソファにはじゃがりこが一本落ちていた。言わずにそっと捨てたけど。
ふと視線を横に向けると、スタイリッシュなマガジンラックが目に入った。付箋だらけのその雑誌を見て、彼の普段の努力がほんの少しだけ垣間見えた気がした。

ガチャン。
気を抜いていると、重たい音がすぐ近くから聞こえて、ドアが開いた。

「おお、まじでいる」
「お、お邪魔してます……」
「お疲れ」
真塩さんはふっと笑ってから、上着を脱いでウォークインクローゼットへ向かった。
ど、どうしよう、半端なく緊張してきた……。そうだテレビ、テレビをつけよう。
私は白いリモコンを取って、壁掛けテレビのスイッチを押した。和やかな動物番組が流れだし、ほんの少しだけ緊張が和らいだ。
シャツ姿になった真塩さんは、ちょっとこれ飲んで待ってて、と冷たいアップルティーを私に渡してから、すぐに洗面台へと向かってしまった。
うがいをする音や歯を磨く音、手を洗う音、それから暫くしてシャワーの音が聞こえて、本当にこの人潔癖症なんだな……ということを把握した。
髪も洗って乾かし、全身綺麗になった真塩さんが、ようやくリビングに姿を現した。
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