中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
「……人って、香りで恋するとか言うけど、そんなに相性の良い香りって、本当にあると思う?」
「わ、分かりません……」
彼が、そばにあるデスクに水を置いた。ゴトンと言う無機質な音が、真っ暗闇なオフィスに響いた。
「ねぇ、ちょっとお願いあるんだけどさ」
「わ、分かりません……っ」
どうしよう、ドキドキして心臓が破裂しそう。
この人の声が、匂いが、体温が、言葉が、麻薬の様に私の体の中に溶け込んでくる。
「こんなこと今まで一度もなかった。家族以外の匂いが無理だった。それなのに、どういうことなんだろうね、これは」
「だ、だから、わ、分かりませんって、真塩さん……」
「……触っていい?」
「わ、分かんないですって……」
震えた声でそう返すと、彼は私の胸元にあった社員証を掴み、それで私のおでこをピシッと叩いた。
「分かんない、は、仕事ができない人の返事だよ、紫水 菜々(シスイ ナナ)さん」
――その瞬間、ぐっと腕を引っ張られて、気づいたら肩に真塩さんの顔があった。
彼は私の背中に腕を回して、私の首元で一度深く息を吸った。
「……紫水さん、嫌だったらはやく退けて」
心臓が、張り裂けてしまう。どうしたらいいのか分からない。こんな感情になったことが無い。
「なんか自分からじゃ、無理そうだから……」
少し掠れた弱々しい声が、何だか妙に色っぽくて、私は彼を自ら退けられ無かった。体に甘い痺れが走って、動けなかった。
「あー駄目だ、疲れてるからかな俺、今超癒されてしまっている……なんだこの香りは……レノノか? レノノの威力なのか?」
「ま、ま、ま、真塩さん、あの私はどうしたら……」
「うんごめん、ありがとう耐えてくれて」
おどおどした声を出すと、彼はぴっとすぐに私から離れてくれた。
耐えていたわけではないんですけど……心からそう思ったが、恥ずかしくて何も言葉にできなかった。
なんて恐ろしい力だ、イケメンパワーとは。
「あー久々にドキドキした」
「本気でこっちの台詞なんですけど!?」
「あ、そんな大きい声出せるんだ」
「わ、私あまり免疫ないのでからかわないでください……っ」
いくらイケメンだからって、先輩だからって、これ以上の勝手を許してはならない。
緊張のあまり喉が渇いてしまった私は、真塩さんがデスクに置いた水を飲んだ。もうなりふり構ってられなかった。
そんな私を見て、真塩さんは少し言いだし辛そうに口火を切った。