Uncontrolled(アンコントロールド)
2
「あちッ」

さんざんふぅふぅして冷ましたコーヒーカップに用心深く口を付けたものの、びくりと舌先を引っ込めてしまう。きっと、少し舌先が火傷で白くなっているだろう。僅かにびりびりと痺れが残る。

「星名ちゃん。何度かその光景見てきたけど、猫舌だって分かっているんだから、もう少し待ってからでもいいんじゃない?」

そう言って寄せられる視線は呆れたようにも愛でるようにも見えて、少しどぎまぎしてしまう。それを悟られないようにと、まだ薄っすらと立ち上っているカップの湯気に顔を隠す。

朝倉とは、10日から二週間のペースで会うようになっていた。一彰よりは少ないけれど、仲の良い女友達と会うペースよりは早い、という頻度だ。前々から約束をしている場合もあれば、当日の仕事が終わる頃にお誘いのメッセージが届いている事もある。

タイミングが合えば食事に行くこともあるし、一彰とのデートや先約がある時は辞退する。そういう時の朝倉の返事はあっさりしたもので、平日は殆ど外食だと言っていた彼は、単に一緒に食事をする相手を探しているようだった。

その恵まれた容姿とバイタリティ溢れる行動に異性として純粋に惹かれてはいるものの、今くらいの距離感がちょうど良い。一彰と別れて、とは現時点で思えないし、遊びなれた大人の男に遊んでもらっている、というちょっとした疑似恋愛を楽しんでいる。

朝倉にとっても星名は、気軽に誘えるちょうど良い時間潰しの相手、という感覚なのだろう。その証拠に、彼は一度だって、星名に対して執着したりフィジカルな関係を匂わしてきたりはしない。勿論、後輩の彼女というポジションを尊重してくれているというのも確かだ。

ちなみに今日は、仕事の都合でデートのドタキャンをしてきた一彰が、その連絡の際に、代わりに朝倉を寄こすと言ってきて会うことになった。やってきた彼は、金曜の夜にも関わらず、ちょうど暇してたからと、迷惑そうにする事もなくニコニコしている。

< 26 / 59 >

この作品をシェア

pagetop