Uncontrolled(アンコントロールド)
シャワーの後、化粧水と乳液で肌を整えてからリビングに戻ると、布団が一式用意されていた。
朝倉は星名の姿を認めると、おかえりと言いながら布団乾燥機を片付け始める。他所の家に泊ってそこまでしてもらったのは初めてで、至れり尽くせりだと感心する。そういえば、朝倉は恋人には尽くすタイプだと言っていたことを思い出す。もとからマメな性格なのかもしれない。
「たまに弟が泊りにくるから定期的に干してはいるんだけど、まだ夜は冷えるから、この方が湯ざめしないでしょ」
「すみません。そこまでしてもらって。先輩って、弟さんがいたんですね」
「うちは、兄貴一人と弟二人、妹が一人の五人兄弟。星名ちゃんは、兄弟はお兄さんだったよね」
「大学から関西で今は転勤で福岡にいるので、一年に一回、会うか会わないか位ですね」
「俺の弟は地元にいるんだけど出張でこっちにくる事が多いから、離れている割には結構会っている方かな」
朝倉の実家はいわゆる地元の名手で、戦前から続く物流会社を中核に、グループ企業がデベロッパーから病院運営まで幅広く手掛けている。彼の口から直接聞いた訳ではないが、当時通っていた高校では暗黙の了解となっていた。
人柄の良さに加え、外見の麗しさや背の高さ、頭脳明晰に運動神経までを兼ね備えているだけでなく、家柄までもがその全てを後押しする希有な人間がこの世に存在するのだと、まだ15歳だった星名は、憧れよりも先に愕然と、住む世界の違いを見せつけられたような気持ちになった。
星名がつい最近まで朝倉の出自を思い出せなかったのは、彼のフランクさと、屈託なく笑うその豊かな表情のせいかもしれない。
例えば、待ち合わせ場所に先に到着している朝倉を離れたところで見つけた時、スマホを操作している指先になぜか品が漂っていたり、グラスを口元に傾けたときにワイシャツの襟もとから見えた無防備に晒された喉ぼとけの様子だったり、脚を組み替えるときの優雅な曲線だったり、遠巻きにして見る彼の姿態は硬質で洗練されていて近寄りがたいくらいなのに、いざ距離を詰めてみれば、穏やかでやわらかい空気感に包まれる。
朝倉は星名の姿を認めると、おかえりと言いながら布団乾燥機を片付け始める。他所の家に泊ってそこまでしてもらったのは初めてで、至れり尽くせりだと感心する。そういえば、朝倉は恋人には尽くすタイプだと言っていたことを思い出す。もとからマメな性格なのかもしれない。
「たまに弟が泊りにくるから定期的に干してはいるんだけど、まだ夜は冷えるから、この方が湯ざめしないでしょ」
「すみません。そこまでしてもらって。先輩って、弟さんがいたんですね」
「うちは、兄貴一人と弟二人、妹が一人の五人兄弟。星名ちゃんは、兄弟はお兄さんだったよね」
「大学から関西で今は転勤で福岡にいるので、一年に一回、会うか会わないか位ですね」
「俺の弟は地元にいるんだけど出張でこっちにくる事が多いから、離れている割には結構会っている方かな」
朝倉の実家はいわゆる地元の名手で、戦前から続く物流会社を中核に、グループ企業がデベロッパーから病院運営まで幅広く手掛けている。彼の口から直接聞いた訳ではないが、当時通っていた高校では暗黙の了解となっていた。
人柄の良さに加え、外見の麗しさや背の高さ、頭脳明晰に運動神経までを兼ね備えているだけでなく、家柄までもがその全てを後押しする希有な人間がこの世に存在するのだと、まだ15歳だった星名は、憧れよりも先に愕然と、住む世界の違いを見せつけられたような気持ちになった。
星名がつい最近まで朝倉の出自を思い出せなかったのは、彼のフランクさと、屈託なく笑うその豊かな表情のせいかもしれない。
例えば、待ち合わせ場所に先に到着している朝倉を離れたところで見つけた時、スマホを操作している指先になぜか品が漂っていたり、グラスを口元に傾けたときにワイシャツの襟もとから見えた無防備に晒された喉ぼとけの様子だったり、脚を組み替えるときの優雅な曲線だったり、遠巻きにして見る彼の姿態は硬質で洗練されていて近寄りがたいくらいなのに、いざ距離を詰めてみれば、穏やかでやわらかい空気感に包まれる。