Uncontrolled(アンコントロールド)
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ノー残業デーの水曜日。定時の午後5時半を回り、30分を過ぎた頃になるとフロアにいる人影はぽつぽつと数えるほどになる。
星名は新人研修後事業部に配属されたが、二年前、人事部に異動になった。おかげでこの二年間はアフター6を謳歌できる余裕ができ、習い事や女子会にも参加できるようになった。
恋人の一彰(カズアキ)と出会ったのは、その頃に改めて通い始めた英会話教室のクラスだった。
アメリカ留学から戻った後もせっかく身に付けた英語を忘れない為にと通っていたのだが、就職してからは思うように時間を取れず退会していた。
一彰はエンジニアで、業界では出世コースのルートとして20代後半から海外に派遣されるケースがお決まりのパターンという事もあり、それを見越して語学の習得に努めていた。星名と同じ上級者クラスに通う28歳の彼にあと足りないものは結婚だと上司に言われているようだ。

午後7時にダイニングバーで一彰と待ち合わせをしていた。
店に向う途中、成り行きで同僚を連れていくことになったと彼からメッセージが届いた。
まだお互い、友人や知り合いを交えて会ったことはないため少し不思議に思ったが、良い方に解釈することにする。周囲を巻き込むというのは交際をオープンにすることでもあり、一彰は結婚を見越した同棲に前向きであるということだろう。そもそも同棲の話は、向こう側から言い出したことだった。


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