Uncontrolled(アンコントロールド)
出迎えたスタッフに一彰の名を告げると、さっそく席に案内される。
余裕を持って店に着いたため、星名が一番乗りだ。
一彰は同僚とだけ言っていたので、男性なのか女性なのかも分からず仕舞いだったが、例え仲が良い同僚であったとしても、デートに女性社員を同伴させることはしないだろう。職場での一彰の様子を覗いてみたいし、いずれにせよ良い機会だと思う。堅物ではないが真面目な優男である彼がどんなタイプと普段つるんでいるのかも興味がある。

初見の店の為、事前にネットのクチコミでお勧めメニューをピックアップ済みとはいえ、どうしても食べてみたいもの以外は、一彰や連れに任せようと思う。

ものの5分もしないうちに、一彰からもうすぐ着くとメッセージが届き、星名はバックからコンパクトを取り出すと、周囲の目を確認してからこっそりと鏡を覗き込み、きゅっと口角を上げて笑みをつくる。
周囲からは物怖じしない性格だと思われている為、まだ誰からも指摘されたことはないが、学生時代からの人見知りは社会人になってもあまり変わらない。ただ、笑顔という仮面を意識して張り付けることで、臆病な自分を打ち消すことができる。そうすることで、最初のうちは演技とはいえ、気が付けば打ち解けているのだ。

スタッフに先導されてくる一彰の姿を認める。
けれども星名は、彼に続く男性を見つけると、驚きにその目を大きく見開いていた。

「お疲れさま。早かったな」

一彰の一声に合わせて星名が椅子から立ち上がると、彼はその流れで隣りいる同僚に星名を紹介し、続いて、星名に対して、一つ上の先輩だという朝倉 笙吾(アサクラ ショウゴ)を紹介した。
その間も朝倉は、星名の遠い記憶の中に残るいたずらっ子のような目をして、にこやかな表情を浮かべ彼女を見ている。こういうところ、昔と変わっていない。恐らく、事前に一彰から星名の写真を見せられていたのだろうと、その顔を見て理解した。

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