やさしい眩暈
「今日の朝イチって、レイラと誰だっけ?」



ストックルームで珈琲豆や紅茶の茶葉の置いてある棚を整頓していたミサトさんに訊ねられて、私は壁に貼ってあるシフト表をチェックしてから答える。



「ええと………ルイですね。

10時からユカが来ます」



ルイは近くの大学の四年生で、ユカはフリーターの25歳だ。



カナリアでは、スタッフは下の名前で呼び合うことになっている。


胸につける名札も、カタカナで下の名前だけを表記する。



これは、カナリアを経営している会社の方針だ。


どうやら外国のカフェのような雰囲気を演出したいらしい。



「レイラには伝えてたっけ? 私、今日は本社のほうに研修に行かなきゃいけないから、店のほうは出れないんだけど」


「あ、はい、聞いてます」


「じゃあ、任せたよ。何かあったら電話してね。ケータイはいつでも出れるようにしとくから」


「はい、分かりました」



お願いね、と言って、ミサトさんはスーツ姿で店を出て行った。


店の鍵を開け、在庫チェックをするためだけに来ていたのだろう。




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