これは平和で日常的なラブコメです。

始まりの日

「ふぁぁー……」

眩しい光が窓から降り注ぎ、小鳥のさえずりが耳に入る。あぁ、ついに始まったか…

今日から俺と藍は高校生として生活する。

つい先日入学式が行われ、同じクラスになりほっとしたのを思い出す。楽しみだけど不安もある。友達、出来るかな……

中学時の友人のほとんどが別の高校に行ってしまい、同じ高校に進学したのが藍だけだった。

あいつら……元気でやってるかな……

思い出に浸りながらぼーっとしていると下から声が聞こえてくる。

「お姉ちゃんも鷺ノ宮高校だったけ?」

「そうそう、ゆうくんとあーちゃんが来てくれたからもっと楽しくなるかなぁ」

「あ、夕紀を起こした方がいい?」

「そうね、お願いしようかな」

………あいつが起こしに来たら確実に骨一本折れるな。仕方ない、来る前に起きるか。

「よいしょっと………おっと……おわっ」

俺がつまずいた瞬間、ドアが開いた。当然そこにいるのは藍なんだが……

「おっはよー!起こしに……へ?」

「あ……っ……」

支えるものがなく、転けないよう必死に手を伸ばした先に……柔らかくも弾力のある膨らみが……

「あ……っ」

「夕紀ぃぃぃ………?」

「い、今のは不可抗力で………」

「まずは謝れぇぇぇ!!」

「ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!」

いだだだだ…骨が!骨が!

「ギブ!ギブ!」

「ウキー!!」

「猿みたいな声だしてないで離してくれぇ!」

「誰が猿みたいな女じゃぁぁぁぁ!!」

「言ってねぇぇぇ!!」

あ、ヤバい……そろそろ…肩が外れる。骨よりいいか…ほら、だんだん気持ちよく…

コキンッ

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

今週二度目の絶叫が響いた。


「ふう、これでよし!」

「胡桃さん、ありがとうございます。」

「いえいえ、ゆうくんも災難だね。あは」

「ええ…まぁ…」

胡桃さんに外れた肩を治してもらい出発の時間までのんびり茶を飲みながら話をしている。うちの学校は送迎バスがあるので遠慮なく利用することにした。
たしか、8時00分発だからあと一時間も時間がある。

「夕紀ー、今日の授業なにー?」

「世界史と国語と数学、あとは研修のオリエンテーション。」

「ありがとー」

今日から授業が入るが、一週間後に控えた宿泊研修のオリエンテーションがメインになるだろう。

「胡桃さんって二年生ですよね。」

「うん、そうよ?」

「じゃあ修学旅行がありますね。」

鷺ノ宮高校は校外行事が多くあり、5月に宿泊研修(一年)職場体験(二年)海外旅行(三年)9月、1月、3月には校外学習という名目の遠足。12月には地域の全学校合同で文化祭やクリスマスイベントが行われる。

「そうなのよねー、行事が多いのはいいけど疲れちゃうなぁ」

ヤダー、と机に突っ伏す胡桃さん。この人意外と精神年齢が幼いんじゃないかな?
頭はいいのに……幼い。不思議な人だ。

「ゆうくん、それは失礼だよー?」

「あ、はい。」

しかもエスパーだった。


しばらくすると、藍も準備が出来たのか話に入ってきた。

「宿泊研修って何処に行くんだっけ…」

「確か、大阪、名古屋、京都だろ?」

「わぁ、羨ましいなぁ…私たちの時は四国だけだったから。」

確か、今年から理事長が変わって予算が増えたらしい。噂ではどこかの令嬢だとか。

「まぁ、理事長が変わったから行く場所も変わったんでしょう。」

「「そだねー…はぁ行事多いなぁ」」

見事にハモりながらうだー、っと姉妹揃って突っ伏している。そんなにダルいのだろうか…

時計をみると7時45分、もうそろそろ出た方がいいだろう。

「さて、そろそろいきますか!」

「えー?早くない?」

「でも、移動時間を考えたらそろそろ出た方がいいかも。」

「はーい…よいしょ!」

今日から始まる高校生活、気合いを入れて行かないとな。

……………………………………


バス停に到着すると、2、3名ほどベンチに座って待っていた。

「あ、意外と少ないんですね。」

「まぁ、家が近い人は自転車とか歩きだからね。」

「あ、あれってクラスの子じゃない?」

藍の目線を辿ると、2人の生徒がバス停にやって来た。

「おはよ、アタシは同じクラスになった蒼天藍。よろしくー!」

アホかあいつ………初対面で馴れ馴れしいな
引かれるぞ………
と思ったが………

「うん!よろしく、私は桂木麻里。で、こっちの子は神無月氷恵羅ちゃん。」

「氷恵羅でいいよ、これからよろしく頼む。」

普通にいい雰囲気だった。

桂木という少女は見た感じ明るく、ムードメーカーといった所か。

対して神無月という少女は、クールな感じだがなかなか友好的なようだ。

「あーちゃん、早速友達が出来たみたいね。」

「えぇ、羨ましいですね。」

「あ!ちょっといいか?」

「ん?」

胡桃さんと話をしていると見知らぬ生徒から話しかけられた。

「キミってさ、もしかして、バンドの王子様?」

「えぇ!どこでそれを………」

てか、引っ張るんだなこの設定。

むにぃぃぃ

急に胡桃さんから頬を引っ張られた。

「ふぁにふるんふぇふふぁ………」

「メタい話はきーんし!」

「ふぁい………」

あはは、と声をかけた生徒が笑っている。
どの高校にもいる誰だろうと分け隔てなく接するキャラだな。こいつ。

「ネットで見たからだよ、カッコ良かったよ?弾き語り。」

「そ、そうか………」

なかなか嬉しいな………

「そうだ、俺は若林火織。隣のクラスだが、よろしくな?」

「あぁ、よろしく!俺は暮内夕紀だ。」

早速俺にも友達が出来た。よかった………

「あは、よかったねゆうくん。」

「ま、まぁ……あ、若林、この人は……」

「カオルでいいよ。」

「じゃあ、カオル。この人は……蒼天胡桃さん。俺の……」

あれ?俺の……なんだろう。保護者?なんか違うな……お姉ちゃん?変な勘違いを招く……

そんな俺を見て胡桃さんはクスッと笑うと説明を始めた。

「二年の蒼天胡桃です。ゆうくんとは幼馴染みです。で、あちらにいるのが妹の蒼天藍。あの子とも仲良くしてあげてね?」

「はい、分かりました。」

さ、流石は胡桃さん……精神年齢が幼いんじゃないかな、何て思ってしまったことを謝りたい……

「ゆうくーん、帰りに買い物行こう?ケーキも食べたいし。」

前言撤回。若干幼いわ……この人

「あ、夕紀ー。この子達は……」

「桂木さんに、神無月さんだろ?」

「あ、うん。」

何で知ってるの?という顔をしているが話しているのを見たからな。

「桂木麻里でーす。麻里でいいよ?よろしくね、王子様ー。」

「げっ……藍……お前……」

「にっひっひ……」

ざまぁみろという顔をしている。殴りたい。

「失礼、王子様……とは?」

「あぁ、ただのあだ名だよ。昔付けられた……」

「そうか、あ、そうだ。改めて神無月氷恵羅だ。ヒエラと呼んでくれ。」

「分かった、よろしくなヒエラ。」

「こちらこそ。」

ここで握手をする。なんだろう、偉い人が行う握手みたいだ。

「あ、カオルー、自己紹介を……」

「あぁ、済ませてあるよ?」

「へ?」

「中学の時、同じクラスだったし。」

「そ、そうなのかー……」

世界って意外と狭いんだな……

「おやおや、若林くんじゃないですかー」

「おう、桂木。久しぶり。」

「久しいですね、若林カオル」

「神無月も久しぶり。」

あれ?同じクラスって言ってたけど……あまり関わってなかったのかな?他人行儀だし。

「あ、夕紀。俺歩きだから先に失礼する!じゃあな!」

「お、おう……」

何を焦ってるんだろうか……時間はまだあるのに……

考えているとそれを遮るようにバスのエンジン音が近づいてきた。

「さて、乗るか……」

とりあえず、窓側に座るか。

「夕紀くーん、隣いいかな?」

「あぁ、麻里か……別にいいけど。」

バフッと席に座るとニコニコしながらこちらを見てきた。気になってしょうがない。

「な、なんで俺を見ているんだ?」

「んー、なんとなくー。」

なんとなくで見るんじゃない。まぁ、でも悪くはないか。普通にかわいいし……っていかんいかん……これじゃあまるで変態じゃないか。

「ゆうくーん?」

「へ?」

「うわっ、夕紀鼻の下伸ばしてる。キモッ!!」

「うるさい!伸ばしてない‼」

必死になって抗議していると、マリとヒエラが声に出して笑っていた。

「な、なんだよ……」

「あぁ、すまない。キミ達の会話が面白くて……」

「そうそう、夕紀くんも藍ちゃんもお姉さんも最高だよ。」

「お、お前らなぁ……ははっ」

つい釣られて笑ってしまった。嫌な気分じゃないしな。

しかし、少し気になってしまう。何故こうして俺達とは仲良く話すのに、カオルとは距離を置いているのだろうか。

まぁ……考えてもしょうがないか。

バスが到着したのと同時に諦めが付いた。
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