これは平和で日常的なラブコメです。
宿泊研修
「これより班決めに入ります。ちゃんと仲良く決めてね?スタート!」

パンッと穏やかな担任が手をならすと、クラスがざわつき始める。まぁ、どうせ俺の班はすぐ決まるだろう。なんせ……

「やぁやぁ夕紀くんもこっちに来なよ。」

「そうだ、夕紀も来るべきだ。」

「そーだそーだー、夕紀も早く来るべきだ~。」

この三人が居るからな

俺以外の女子や男子と組めばいいものを…なんで俺の方に来るんだ……。藍は分かっていたが、マリとヒエラは予想外だった。

「お前ら、同じ中学の奴とじゃなくていいのか?」

「え?まぁ、うん。ほ、ほら、新しい友達とも仲良くしなきゃだし……」

「そ、そうだな。せっかくの機会だしな。」

なんか歯切れが悪いな……これはもう少し聞いてみるか……

「お前ら、中学の時何かあったのか?」

「「………」」

ドゴォッ

強烈なボディーが入った。

「あ、藍……なにするんだよ…」

「なんで、女の子の気持ちが分っからないかなぁ…夕紀は…」

「「ダメ(か)……?」」

うっ…そんな捨て猫みたいな目で見るな。

「わ、分かったから…仕方ないな。」

「本当!?ありがと夕紀くん!」

「わ、こら抱きつくな」

ほ、ほどよい大きさの膨らみが……
じゃなくて………ほらぁ!藍が引いてる!
クラスの女子は顔を赤くしてるし…
あぁ、数少ない男子の目線が痛……ん?

俺は違和感に気付く。一名男子…いや女子生徒がハブられている。いや、班に入ることを拒否しているのか?ていうか……何で男装…

「なぁ、あの子、どうしたんだ?」

「あ、ほんとだ。どうしたんだろ。」

「「………」」

あ、こいつら今、目を反らしたな。

「さぁて、吐いて貰おうか………」

「えー…流石に夕紀くんのお願いでも…それは…」
 
ドンッ

「さぁ………」

「や、やだよ、ゲロインになりたくないし…」

「誰がゲロを吐けって言った!!情報を吐けって言ったんだよ!」

ドッとクラスが沸いた。真面目に言っているんだが………。女子生徒に至ってはうっとりしながら

「…ドン…」

「壁…ンだわ…」 

とか言っている。

だが今はそれを気にしている暇はない。

「さぁ、早く…」

「分かったよ分かったから………その…」

「ん………?」

「手ぇ…どけてくれない?」

「はっ……!悪い…!」

何してんだ……俺……

「で、あの子はどうしたの?」

「実は…男装癖があってだな…男子も女子もそれを知った上で接しているのだが…」

「無視をしていると…」

「ちょ、夕紀くんそれは言い過ぎだよ。」

でも、平たく言えばそうだろう。心を閉ざしているのか…?

仕方なく、クラスメイトに話しかける。

「なぁ、確か、各班5人ずつだったよな?」

「ふぇ?う、うん…」

「そうか、サンキューな。」

「あ……うん…。えへ……」

ちょうど俺等の班は今4人。ならば……

「お前、何一人でつっ立ってんだよ」

「そうだよ、早くどっか入れよ」

その子に話しかけようとした瞬間、面の悪い二人組が先に割って入ってきた。

「………………」

「おうコラ、しかとかよ」

「ヒャハハ、しかとかよ」

「あの……止めてください」

担任の先生がオドオドしながら言う。しかし、不良は無視。

「おい、もうやめろよ。」

見ていられずに不良の肩に手を置き止める。

「ああん?離せよガキィ……」

「そうだぜガキィ……ヒャハ」

「お前らがやめるまで離さない。」

多分、次にこいつらは殴りかかってくるだろう。だから……

「離せっつってんだろうが!!」

「あ、兄貴!ヤバ……」

パリィィィィン

だから思いっきり当たって飛んでやった。いや、跳んでやったか。

しばらく静寂の時が流れる。そして

「キャァァァァァァァ!!」

一人の女子生徒の叫び声により教室はパニックに。

「そんな……俺は…」

「あ、兄貴ィ……」

「ほらっ、こっちに来い!」

不良生徒が先生方に連れていかれるのを横目で見ながら微かに笑みを浮かべた。

男装少女に向けて。

「…………っ!」

目が合ったがすぐに反らされてしまった。まぁ、殴られて笑う奴は変だからな。

「夕紀くん!大丈夫!?」

走ってやって来たのはマリだった。

「あぁ、大丈夫だ。」

「でも……血が……」

あー、ガラスで切ったのか……

「夕紀!!」

「暮内氏!!」

「暮内くん!」

「やれやれ…………」

マリに続いてクラスメイトが集まってくる。(一人呆れた声が聞こえたが、きっと藍だろう。)
これだけ騒ぎが大きくなれば、あの二人組は退学、よくて停学になるだろう。
イジメの原因は取り除けた。これで彼女も安心して暮らせるはずだ。

「と、とりあえず保健室に……」

「私が連れていきます。」

名乗りあげたのは男装少女だった。

「は、はぁ紅さん……じゃあ……」

「え……紅?」

「いや、字は違うはずだけど……」

何やらクラスが別の話題で騒いでいるが、担架に乗せられ運ばれたのでよく分からなかった。
疲れのせいか瞼が重くなり、俺は眠りについた。

……

目が覚めると、窓から夕陽が差し込んでいる。ざっと一時間くらい寝ていたのだろう。流石にクラスメイトや胡桃さん、藍達を心配させるわけにはいかない。そう思い起き上がろうとすると…


「ダメ!まだ起きないでください!」

という声が聞こえた。

声の方を見てみると…


上だけ女子のブレザー、下は可愛らしいパンツといった格好の男装少女が

「ご!ごめん!!」

慌てて目を反らした。
着替え中だから起きないでと言ったのか………

「もう大丈夫です。」

「へ?」

もう一度男装少女を見てみると……

「あ……」

綺麗な女子生徒が立っていた。ボーイッシュだけど、とても綺麗で…つい見惚れてしまった。

「あ、あまり、ジロジロ見られると…」

「ご、ごめん…綺麗だったから…嫌だった?」

「いえ、嫌では……綺麗か……」

何故か少女は俯いてぶつぶつ言い始めた。
そして……

「あの…今日は私のせいで…」

「ん?………あぁ、君のせいじゃないよ。」

「いえ、私があんな格好をしてたから…」

「…なんでそんなに自分を責めるんだ?」

「え?」

少し声音を変えて言ってみた。だって、このままだと無限ループになるし。


「いいか?俺はただイジメの原因を消したかっただけだ。だから君は何も悪くない。いいね?」

「で、でも………!」

まだ、自分が悪い、という顔をしている。……こうなったら。

「じゃあ、こうしよう。俺等の班に入ったら君の罪を無しにする。これでどうかな?」

「っ………!」

「悪くない話だろ?」

そして、やっと笑顔になり

「はい!喜んで…!」

と言ってくれた。
自分は少しずるいと思ったが、これ以上彼女自身を責めて欲しくなかった。

「あ、私、紅皐月です。皐月でいいですよ。」

「分かった、俺は暮内夕紀。名字の読みは同じだけど漢字は違う。と、まぁよろしくな。」

「はい!夕紀さん!」

再び満面の笑み、やはりこの子は美しい…

見惚れていると、急に保健室のドアが開かれた。

「夕紀ー、大丈……夫?」

「「あ………」」

「あー、お邪魔しましたー。」

棒読みだった。引かれたな、これは…

「夕紀くん!大丈…夫…」

「ちょ…」

「うわぁぁ!夕紀くんがおかしいよぉ!」

「何がおかしいんだ!!」

さっぱり意味が分からなかった。

「おや?夕紀、大丈夫だったか?」

「あぁ…ヒエラ……」

「…?」

これが普通の反応だよな…うんうん。

ふとヒエラを見ると不思議そうな目で皐月さんを見ている。

「はて………どこかで会ったかな?」

「あの、私、皐月です。」

瞬間、ヒエラの顔が優しい笑みになり

「やっと、本当の自分を出したか。」

と、皐月さんを我が子のように撫でる。

「えへへ…」

皐月さんも嬉しそうに目を細める。
二人がどういう仲なのかわからないが、このまま二人にした方がいいだろう。そう思いながら保健室を跡にした。

……

「ただいまー」

体に異常はないため普通に帰ることができた。
疲れた体を癒すためにリビングへ向かう。
そして、扉を開け…

「ただいm……むぐっ!?」

挨拶をしようとしたら急に抱かれた。何事かとしゃべろうとするが胸に圧迫され声がでない。

「ゆうくーん!大丈夫だった!?痛くない?心配したよぉぉ、うわぁん!」

「ぷはっ、胡桃さん?」

なんとか胸から顔を上げると号泣する胡桃さんが目に入った。藍がソファーに座ってこちらを見ているが、引いている目ではなく呆れている目を向けいた。
とにかく、安心させないと……

「大丈夫ですよ、胡桃さん。藍の折檻で慣れてますから。」

「ちょっ、アタシ関係ないもん!」

猿が何か言っているがスルー。

「だから大丈夫です。胡桃さん、安心してください。」

「うん…ひぐっ、わかった…えぐっ」

本当に、精神年齢が幼い人だな。でも…優しくて、心配してくれる。母親のような人だった。

「さて、ご飯にしますか。」

「さ!藍もカレーついで」

「はーい!」

泣いている胡桃さんより、こうして笑っている胡桃さんの方がしっくりくる。そう思ってしまった。


食事の後、クラスメイトの皆がメールをしてくれて嬉しく感じた。『大丈夫?学校来れる?』や、『大丈夫か?待ってるぞ?』といった
簡単なメールだがとても嬉しかった。

どうやら、二名の不良生徒は退学処分になったらしい。しかも、先生方ではなく理事長の判断らしいが……理事長は一体何を考えているのだろうか。

まぁ…

「終わりよければ全て良し、だな」

「「……?」」

こうして、世界的に見て平和な一日が終わっていった。

そして数週間の時は流れ、
「ではではー、出席確認をするのですよー?」
 
ついに始まる宿泊研修。一体、なにが起こるのだろうか。
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