幸せの定義──君と僕の宝物──
リュウは自分の事を何も話さない、と言うトモの言葉通り、確かにリュウの口からは、そんな話を聞いた事がなかったなとユウは思う。

(トモが親友でイイやつで…オレとなんとなく似てるって事は聞いてたけどな…。今思えば、確かに少し似てるかも…。)

「もしリュウが同窓会で彼女に会ったとしてさ…なんて言うんだろうな…。アイツの事だから多分…自分の気持ちなんかそっちのけで、オレの事なんか話すんだろうな…。」

「どうだろうな…。」

「オレは…もし彼女に会えたら、なんて言うんだろう…。」

それからしばらく二人で黙り込んだまま、静かにグラスを傾けた。


トモは自分の弱さを隠そうとしていつも笑っていたのだろう。

不確かな彼女への想いと、親友のリュウを気遣う気持ちで、トモは身動きが取れなくなっているのだとユウは思う。

(やっぱりリュウが大事なんだな、トモは…。優しすぎるから、昔も今も自分を責めて…リュウを責めた事なんてないんだろうな…。)




すっかり夜も更けた頃、ユウは残っていたウイスキーをトモのグラスに注いで、ボトルを空けた。

「トモ…。オレはさ、つらい事もいろいろあったけど、これで良かったんだと今は思ってる。もし高校生の頃にレナと付き合ってたら、オレはレナを置いてロンドンには行けなかったと思うんだ。」

「オレもだ。あのまま彼女といたら、ロンドンには行ってないだろうな。」

「それにさ…ずっと一緒にいられたかどうかもわからないじゃん。ロンドンに行ってなかったら、今頃別の人生だろ?大学行って就職してサラリーマンになってたかも…なんて、全然想像つかないよ。」


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