有害なる独身貴族
11.あなたは誰ですか


まだ終電は残っている時間だったけど、数家さんは一直線に駅前に向かい、客待ちをしているタクシーを拾った。

私を奥の座席へ詰め込み、自分は隣に乗る。運転手さんに行き先を告げて、背もたれに体を預けて腕組みをした。


「少し寝てもいいよ。20分位はかかるから」


ハンカチで目元を抑えている私にそう言うと、数家さんは自分側の窓によりかかり目を閉じた。

車が滑るように動き出す。街灯ばかりが目立つ景色が流れ、カーラジオからはパーソナリティの乾いた笑いが聞こえてくる。

気を使ってくれているんだろう。
運転手さんは一言も話さず前を向き、数家さんも無関心を装ってくれている。

一人じゃないのに、一人のような不思議な安堵感の中、私はなるべく声を立てないようにしながら、すっきりできるまで泣いた。





ゆらゆら、揺れている感覚がした。

それは次第に強くなり、本当に揺さぶられていることに気づいたと同時に体中の全神経が覚醒する。


「……さの、房野、ついたよ」

「えっ!」


タクシーのウィンカー音が響いていた。
支払いを済ませた数家さんが、私の肩を揺らしている。


「あ、すみません、私」


どうやら寝ていたようだ。
慌てて立ち上がろうとしたらタクシーの天井に頭をぶつけそうになる。


「落ち着けって、ゆっくりでいいよ」

「す、すびばせん」


日本語もマトモに話せない。
かばんとハンカチを手に持って、慌ててタクシーを下りた。

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