有害なる独身貴族

ついた先はアパートだった。大通りからは少し離れているのか、音は聞こえてくるけど一帯は暗い。

はっきりとは見えないけど、一階部分には囲いが広くとってあり、庭もありそう。エントランスも小綺麗で、オシャレな感じのする建物だ。

数家さんは迷いもなく三階まで上ると、一室の前で電話をかけた。

すぐに開けられる扉。
出てきた姿を見て目をみはる。

夜中だから当然といえばそうなんだけど、刈谷さんがお化粧をしていない。
目鼻立ちがくっきりしているから、相変わらず綺麗な印象はあるんだけど、いつもの攻撃的な綺麗さじゃなくて、なんだか優しい感じ。


「あら。ほんとに連れてきた」

「悪いね」

「ホントよ」


会話を聞いているといたたまれない。

そうだよね。
彼氏が夜中に女の子を保護して帰ってくるんだから、刈谷さんにとっては面白いわけが無いよね。


「すみません、やっぱりかえ……」


踵を返そうとした私を刈谷さんの手が掴んだ。


「バカね。ここまで来て遠慮するもんじゃないわよ。入って」

「……あれでも歓迎してるから。気にしなくていいよ」


数家さんに背中を押されて、私はおずおずと中に入る。

< 144 / 236 >

この作品をシェア

pagetop