有害なる独身貴族
貰った器を抱えて事務所に入ろうとしたら、先に内側からドアが開いた。
出てきたのは、空の器を抱えた上田くんと仲道さんだ。
「あ、房野さん。お先に休憩頂いたよ」
「美味かったすよー」
「ホント? 楽しみ」
結果的に追い出す事にならなくてホッとする。
二人が出て行って、私は一人、湯気の上がった器をテーブルに置く。
店内の喧騒から逃れてはーっと溜息をつくと、途端に疲れが襲ってきた。
立ち仕事だから、足はキツイんだよなぁ。
動いているときは疲れてることも忘れてるんだけど。
夜は長いし、元気を出すには腹を膨らまさなきゃ。
「頂きます!」
気を取り直して割り箸を持ち、食事を前に一礼。
この仕事のいいところは、夕飯に困らないことだ。
誰も居ないからと、特に気にもせずズルズル音を立てて食べていたら、突然ドアが開いた。
「俺も休憩ー」
「て、店長」
ニコニコしながら、あろうことかうどんを食べながら入ってくる店長。
行儀悪いな、これだから独り者は。
「うまいか? つぐみ」
「ええ。美味しいです。お出汁がきいてる」
「そうか」
私の前にドサリと座って、自分の器からかまぼこをひとつ取ってつきだしてみせる。
表面に桜の形の細工が施されている。
色まで付いているわけじゃないから目立たないけど、何気に綺麗。
「みろ、このかまぼこの細工。俺、凄くない? 天才じゃない?」
得意気に語る店長。
無邪気そうな姿はとても40歳とは思えない。
小学生をあやすお母さんのような気分になってしまう。