有害なる独身貴族


そして、翌日。
私たちは出勤前に二人で婚姻届を出しに行った。

「休みの日のほうが良かったのかな」


「どうしてですか?」

「祝う間もなく出勤だな、と思って」

「お祝いなら昨日してもらったじゃないですか」


私は軽くステップを踏みながら、自分の名前を口の中で反芻する。

片倉つぐみ。
もうお父さんの苗字じゃない、私の新しい名前。

お父さんには失礼だけど、重たい柵から開放されたような気持ちがする。


「新しいネームプレート作んねぇとな」

「とりあえず橙次さんの予備をください」

「いいよ」


微笑んで手を伸ばしてくれる彼の腕に抱きつく。

世界で一番大切な人。

あなたが居たから、生きてこれた。
あなたが居たから、居場所ができた。


そして私にとってもう一つ大切な場所は、やがて見えてくる【U TA GE】だ。

彼をもう一度見つけることができたのも、おばあちゃんを亡くした私が生きるための力を得ることができたのも、この店のお陰だ。

これからの毎日356日。更にその先の何年も、私はあなたと一緒に、ずっとここを守っていきたい。

大切な仲間たちと、助けあったり叱りあったりしながら、一日一日を大切に過ごすしていきたい。


「つぐみ」

「はい」

「幸せになるぞ」


私の指針はいつだって、あなたの言葉だった。


「はい!」


だからこれからもずっと、私はあなたの言いなりだ。





【Fin.】



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