有害なる独身貴族

 【U TA GE】から駅までの大通りを一本横にそれると、細い路地に入る。
そこは、道路整備が行われる前のメインストリートで、立ち並ぶ店はどこか昭和の風情を醸し出している。

 俺、数家光流は、迷いもなくその中の【粋】というのれんのついた一軒に入った。

扉を開けるとささやかな賑わいの声が一瞬静かになり、入ってきたのが俺であるのを確認すると皆、興味を失ったかのように再び会話を始める。

店主だけが、目をそらさずに奥の方向へ顎をしゃくった。

 
「いらっしゃい。奥で盛り上がってるよ、あいつら」

「すみません。ありがとうございます」


 この店の主人は、目つきと愛想は悪いが面倒見がいい年配の男性だ。俺は苦笑して奥にある唯一の小上がり席に向かった。


 現在、深夜0時、仕事帰り。
待ち合わせているのは同じ職場の同僚三人で、一人だけ遅れてきたのは、店長である片倉橙次の話に一人だけ付き合わされていたからに他ならない。


「おーきたきた。光流、こっち」

「お疲れ様です。仲道さん、馬場さん、高間さん」


 馬場さんを除いて、【U TA GE】の創設メンバーとも言えるメンツだ。

四年前、以前の職場で一緒に板前をしていた片倉さんから、「お前の好きな接客だけやらせてやるからこないか」と誘われ店に入ったとき、初めて仲道さんと高間さんに会った。

初めは不安しかなかったが、人選はしっかりしていたのか、料理の腕が良かったのか、店はすぐ軌道に乗った。

俺はパートやバイトの指導を任され、夢中になってそれをこなした。料理を作るより、場の仕切りをするほうが楽しかったので、転職は正解だったなと思っている。

最初は夜だけの営業。やがて昼もという話になり、迎えた料理人が馬場さんだ。


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