有害なる独身貴族

ワンピースだけだと思っていたのに、簡易包装を開けたら、ベルトやカーディガン、イヤリングまで一式がコーディネートされていた。


「え? いつの間に」


そんな時間、なかったよね。
一人にされたのは三十分もないくらいだったし、あの時片倉さんは確か……

そして気づく。
店員さんと仲良く話していたあの時間。

あれってあの人をナンパしていたわけじゃなかったんだ。

じわりと頬が熱くなるのを感じる。
じっとしていられなくて、握りしめてしまった包み紙がガサガサと音を立てた。


これを選んでくれていたんだ。


このワンピだけじゃなくて、靴や鞄以外のコーディネート全部。

私が他の男に恋をするためにこれを着ろって?


心臓が踊る。顔が熱い。

なんでこんなことするの。

保護者のつもりなのかも知れないけど、こんなことされて他の男に目が行くなんて本気で思ってる?


【房野が気づいていないだけで、君は俺に恋はしてないよ】


こんなタイミングでこのセリフを思い出しちゃう自分が悔しい。

知らないってば、知りたくないよ。
穏やかなだけじゃないこの感情。

胸が熱くて、苦しくて、でも嬉しくて自分を抱きしめたくなる。

鏡にうつる自分の顔は真っ赤で、眉が下がっていて、まるで途方にくれているようだ。

迷子の子供みたいで、それがまた今の心境にはピッタリで。


迷子でよかったのに。


数家さんを好きでいたのは、彼が絶対私を見ないと分かっていたから。
生身の恋愛をする度胸は私にはなくて、ただ、店長の言葉に引きずられただけ。

それは、『生きろよ』と言った彼の言葉だから。


私にとって、片倉さんの言葉はいつも命令のような効果が有る。

彼がいいと言う人だから。
彼がしている仕事だから。

彼がここにいるから――――だから私はここにいる。



そして気がつけば、いつも彼の言いなりだ。





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