有害なる独身貴族

会社員があまり乗らないこの時間はとても空いている。
やってきた電車にかけ乗って、開いている席にお尻を埋める。

遠心力で、進む方向とは逆方向に引っ張られ、斜めになったまま窓の外を見る。

いい天気だ。
建物の合間に見える白い雲に青い空。

今日も頑張ろう。

心の中で気合を入れる。
ちゃんと必要な人間だって思ってもらえるように。





電車が不快な音を立てて止まる。

少しウトウトしていた私はホームの駅名を見て、慌てて電車を下りた。

どうもいつもよりぼんやりしているのは、休み過ぎてしまったからかな。
まだドキドキしながら遠ざかっていく電車を見送っていたら、後ろからポンと背中を叩かれた。


「房野さん!」


振り向いたら、ジーンズに半袖のシャツを着た上田くんが人懐こそうな笑顔で立っていた。


「上田くん」

「同じ電車だったんですね。もう具合大丈夫ですか?」

「あ、うん。ごめんね。ありがとう」

「電話くれないから……心配してました」


上田くんは目を伏せ、肩を落とす。

あ、あれ。
そんなシュンとする上田くん、珍しくない?


「や、ちょ、なんで上田くんがしょげるの? あ、そうだこれ、この間送ってくれたお礼。はい」


買ったばかりの入浴剤を渡すと、上田くんの顔が一気に晴れる。


「俺にっすか? ありがとうございます」

「あとね、お薬のお金とかいくらだった?」

「ああ。いいっすよ。気にしないでください」

「でも。薬とか高いし。上田くんまだ学生さんだしさ」

「大丈夫ですって。バイトだってしてるんですし。……つか、やっぱそういうイメージですか? 学生だから頼りないっていうか」


また顔が陰る。

あ、あ、どうしよう。
落ち込ませたいわけじゃないのに、なんでこうなる?

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