蒼いパフュームの雑音
5.真紅
話をしているうちに、涙が溢れて鼻をすすると、未奈は荷造りをする手を止めて私を抱きしめた。
「あんった、本当にバカ。お人好し!あたしは初めからあの子、何かあると思ったのよ!図々しいにも程がある!」
「本当に自分でもバカみたいだよ。柊、信じてたんだけどな。」
「てゆうかさ、もう、緋色さんにしちゃいなよ!凄い紅の事気に入ってたんだよね。」
未奈は私の肩を揺すりながら言った。
「だって、それこそ柊の比じゃ無いと思うんだけど、女の数。」
「そう……だよなぁ。earthの緋色だもんなぁ。」
「色々辛いねぇ………それより、未奈はどうゆうことなの?凛さんところに泊まったって。」
私は涙を拭きながら聞いた。
「ふふ。別に何にもないよ。クラブのイベントの後、少しだけ部屋で飲んだだけ。色っぽい事はなくて、結局最後は仕事の話。あーーー、辛いー!」
「辛いねぇ。」
「あ、今少しほっとしたでしょ?」
「何でよ?」
「あたしが凛と何も無かった事に!」
「ないよー!私は椎奈が好きだもん。」
「いやー、今良かったー!って顔してた!」
やっと笑えた。
未奈が無理やり笑わそうとしているのがわかった。
もう、全て笑い飛ばしたかった。
荷物をまとめた私達は、新大阪駅のロッカーに詰め込み、最後の大阪を楽しんだ。
携帯には何度も柊からの着信があったが、夕飯を食べる頃には充電も無くなり、出ることが出来なくなった。
東京行き最後の新幹線に乗り込み、ビールで乾杯をした。
「はぁ。明日から仕事かぁ。再来週のrosé rougeまで辛いなー。」
「同じ日々の繰り返しが始まるねー。未奈は名古屋行かないの?」
「さすがに来週末は休めないわ。紅は?」
「うーん、行こうと思えば行けるんだけど、今は疲れてて考えられないや…。」
東京へ近付く度に、一気に現実に戻される感じだった。
そして、大阪が離れる程に、全て夢だったように思えた。
柊がちゃんと付き合ってくれと言った土曜日の夜。
ひぐらしの唄の中で詩織に会ったこと。
眠ってしまったrosé rougeのライブ。
瞳が投げた、赤く染まったガラスの破片。
そして、あの香りに抱かれた時間。
むしろ全て夢であれば良いのに。