蒼いパフュームの雑音
駅に着いたのは1時を過ぎた頃だった。
まっすぐ帰ろうと決めたのに、オレンジ色の灯りに誘われてラパーチェのドアを開いた。
たった3日振りなのに、何だかとても久しぶりなように思えた。
「強志さんー!聞いてー!」
いつもの毎日が帰って来たみたいだった。
強志さんに愚痴をこぼして、
空が明るくなるまでビールを飲んで、
家に帰って、
シャワーを浴びて、
眠って、
起きて、
バイト行って、
またラパーチェ行って。
こんな事になるなら、ダイヤモンドなんて望まなければ良かった。
イライラと疲れなのか、ビールが喉を通らない。
「紅ちゃん、お疲れ?」
「…………ヘトヘトです。何か元気になるカクテル下さい。」
強志さんはにっこり笑って、シェーカーを振った。
ピカピカのグラスに注がれたカクテルにハッとした。
「はい。ジャックローズ。」
「えっ?これ、何で?」
「あれ?ごめん、カルバドス苦手だっけ?」
「ううん、このバタバタの中で唯一ホッとした瞬間に飲んだの。」
「リンゴの香りは落ち着くからね。」
偶然の一致と共に、緋色の香水の香りを思い出した。
「強志さん、今日はこれ飲んだら帰るね。」
今日は珍しく、朝を迎える前にベッドに入った。