蒼いパフュームの雑音
 駅に着いて、咲良からメッセージが届いた。

『ラパーチェに居るけど、来ない?』




ラパーチェのドアを開けると、珍しく静かな店内に、咲良の声が響いてた。

「おつかれー。」
「あ、おつかれ!おつかれ!京果ちゃんから連絡来た?」
「うん、さっき。」
「楽しみだわー!あの円山 京果と仕事が出来るなんて思わなかったわー!」


私はカウンターに座りながら、強志さんにビールを頼んだ。

「私だって、そうだよー。この何週間か色んな意味で現実的じゃないよ…」

「あっ!!」

  咲良の突然の大声に驚いた私は、カウンターのビールを倒してしまった。
タオルをもらい、スカートを拭いている時、あの時の緋色を思い出していた。

  あれから、事あるごとに緋色がちらつく。
街中で似た香りがすると振り返ったり、テレビのcmでearthの曲が流れると食い入るように観ている自分がいた。

「ちょっと!なに急に大きな声!」
「ごめん!大丈夫?ああ、違う、柊よ!柊!何があったの?あれから、荒れて大変なのよ!」

「何があったのか知りたいのはこっちのほうだよ。」
「え?どういうこと??」

私はあの日あった事を、時間を掛けてゆっくりと話した。


未奈と違って咲良はちゃんと話を聞きたがる。
言葉を大切にする人だ。
前の男と別れた時、簡単に話をして凄く怒られた。

『紅にとって、その人への気持ちってそんな簡単な言葉で済まされちゃうの?だから他の女に取られちゃうのよ!何があって、どんな気持ちなのか、ちゃんと話さないと相手に伝わらない。話をして初めて言葉って生きて来るんだとあたしは思うの。もちろん、あたしにもほかの人にもよ?』

この咲良の言葉は今でも大切だ。


伝えなきゃ、わかってくれない。


今回の柊と私みたいだ。


「柊がねぇ…あんなに紅の事言ってたのに。あの、詩織って子じゃないの?元凶。」
「うん…そう思いたくないんだけど…」

そして、今度は緋色の事を話した。
ゆっくりと丁寧に。

「こんな言い方するの嫌だけど、緋色さんの話をしてる紅、綺麗よ。でも業界でも女関係でいい話聞かないわ、あの人。噂が出るって事は、少なからず何かあるって事だけは忘れずに。」
「そう、だよね……」
「ああ!もちろん、あたしは紅の味方よ?幸せになって欲しいの。本当に。」
「…ありがとう。」
「今は自分の気持ちに素直になってみたらどう?やっと願ってたダイヤモンドじゃないの?」



願っていたダイヤモンド。

そうだ。
繰り返しの毎日から脱却したくて、願っていた事。

だけど、いざ変わると目まぐるしくて、着いて行けない自分がいる。



咲良が強志さんにビールを追加して言った。

「幸せになるには多少の犠牲も必要。いい人でいたら、掴めるものもすり抜けちゃうかもよ?」

「そう、だね。」

「それより、柊。あの子何とかしなくちゃ。」
「何かあったの?」

どうやら柊は大阪から帰ってから、リハーサルをすっぽかす事が多くなったらしい。
他のメンバーもお手上げだと、咲良は言った。

私のせい…なのだろうか。

どちらにしても、1度会わなくてはならない。
ちゃんと、言葉を伝えなきゃ。


そう毎日思いながら、複雑な思いで揺れていた。




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