蒼いパフュームの雑音
大阪から一週間。
あれから毎日、柊からメッセージや電話は来ているが、私は出ようともしなかった。

逃げてちゃダメだって解っているけど、電話に出ようとすると、ホテルでのキスを思い出して吐き気がした。

  ただ、どうしてももらったネックレスだけは外せずにいた。





いつもの仕事場。
給料日前とあって店内はガラガラで、私はあと10分で12時を指す時計とにらめっこしていた。

ブッブーブッブー ブッブーブッブー

着信は京果さんからだった。

「もしもし?」
「あ、紅ちゃん?夜分ごめんね。今大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ?」

私は店の外に出て電話を続けた。

「前に言ったモデルの件。再来週とか都合どうかな?全く休みが無かったんだけど、rosé rouge終わったら少しオフが出来るのよ!」

すっかり社交辞令だと思っていたので驚いた。

「……本当に私で良いんですか?」

「大丈夫だって!!ヘアもメイクもカメラマンもみんなプロだよー!だから紅ちゃんは気にしないで身を任せて!」

  素直に嬉しかった。
自分を必要とされる事が。


「詳しくはまた連絡するね。あ、咲良くんがメイクで一緒にやるから、気楽に行こうね。」

「よ、よろしくお願いします…。」

電話を切ると時計は12時を過ぎていた。


いつもの帰り道だけど、少し足取りが軽かった。
  電車の流れる景色に合わせて、ヘッドホンからはrosé rougeと昔のearthを流していた。

   来週はrosé rougeの東京公演。
今度こそ万全の体調で行かなくちゃ。

earthが流れると胸が苦しい。
最新のアルバムは持っていないので、10年前のアルバム。

沢山聴いて、この声に恋していた。
10年後、こんな気持ちで彼の声を聴く事になるなんて。

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