蒼いパフュームの雑音


携帯を見ると時間は9時。



『まだ上がれないんだけど、良かったらナカウチ出ない?ビールでも飲んで待ってて?』



京果さんからメッセージが届いていた。
未奈からのメッセージもナカウチの話だったので、贅沢な時間潰しに向かう事にした。


ドームを出て隣のビル。
そこのワンフロアを貸し切っての打ち上げ。

未奈は出版関係の人と話していたが、時折私の方に戻って来ては、慌しくまた他のスタッフに話し掛けていた。
  これでも、私に気を使ってくれてるのだ。



私は端の壁に寄りかかって、会場内を見回した。

見た事のあるアーティストやモデル、アイドル、俳優、政治家、デザイナー、あらゆるジャンルの有名人があちらこちらにいた。


ビールを飲みながら、そんな人々を見ているだけで楽しかったのに、柊を見付けてまた気分が落ちてしまった。

真反対の壁際に、他のメンバーや咲良、そして詩織の姿。

やっぱり帰ろうと、出口に向かうと丁度入って来た京果に会った。


「遅くなってごめーん!どう?飲んでる?」
「あ、いえ、外で待ってようと思ってて。」
「メンバーさ紹介しようと思ってたんだけど、まだまだ時間かかりそうだから、もう出ても平気?」

私は笑顔で頷いた。





タクシーで20分くらい。
六本木の外れ、重々しい鉄の扉を開けると、アジアンテイストの落ち着いた内装が広がっていた。
隠れ家みたいなこのお店は、雑誌で使われたりしていてとてもセンスが良い。
rosé rougeのメンバーも良く使うらしい。

「忙しいのに、待たせちゃってゴメンネ」
「いえいえ、あんなに有名人見たの初めてですよー!貴重な体験させてもらいました。」


ウソみたいに穏やかに話せた。
始めこそ、今回の撮影のコンセプトやロケの場所など話していたが、そのうち自然と今回あった事を話していた。

「まだcobalt Airの皆とは深く付き合って無いけど、男ってさ、誘惑に弱いんだよねー。私も昔は色々あったなー。ま、基本的にバンドマンはダメな場合がほとんどだよね。」



京果さんも昔は色々と遊んでいた事を話してくれた。

  若いだけでちやほやされて、rosé rougeがデビューと同時に京果さんの名前も売れ、右も左もわからないのに、どんどん仕事が入ってくる。

「調子に乗ってたなー、あの頃は。」


短く整えたベージュの指先が、華奢なワイングラスを傾けた。


今日はここで、朝を迎えそうだ。














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