蒼いパフュームの雑音
少し体が軽くなった。
柊からの着信がある度に、グッと胸が苦しかったから。


ドアの外はすっかり秋の空だった。
澄んだ青空がとても高く感じた。





表参道。

地下鉄から地上に登り、青山通りを左に少し行った所に京果の店があった。

ウィンドウを見てドキッとした。

そこには撮影の時に着た麻のドレスとルブタンのヒール、そして大きく伸ばされた私の写真が飾られていた。


呆然と立ち尽くす私を見つけた京果が嬉しそうに私を手招きをした。


「紅ちゃん!待ってたよー!写真、ごめんね。どーしても使いたくなっちゃって。」
「いえ、あ、いや、驚きました。」
「だよねぇ。でも凄い評判いいんだよ!あ、どうぞ、座って座って。」


そう案内された店の奥には、アンティーク調のソファーと真鍮の金具が付いた、センスのいい家具が並んでいた。


「それでね…」

京果はコーヒーを出しながら白い大きな封筒をテーブルに出した。

「これ、見てみて?」


深緑色のアルバムの中は、海で撮ったあの写真達が入っていた。

撮り方なのか現像方法なのか、不思議な雰囲気の写真達だ。

「それにしても、私じゃないみたいですね。」

「ね、凄いと思わない?自分が変わるって勇気いるけど、クセにならない?」
「そう、ですね、夢みたいな時間でしたから。京果さんや咲良が魔法使いみたいに思えますよ。」

「もう少しだけ、魔法にかかってみない?」
「え?」


京果は、ディスプレイされた私の写真の評判の良さと、それを見た雑誌編集者から私をモデルとして紹介して欲しいと頼まれた事を話した。

「私が、モデル?この年で?」
「その年だからじゃないかな?年明けから三十代向けの雑誌を創刊するみたいなの。私も今回少し絡むんだけど。その編集長が直々に、ぜひ紅ちゃんを紹介して欲しいって。」


降って来たんだ。

ダイヤモンド。

京果の言うとおり、エメラルドやサファイアも降って来たようだ。

私は突然過ぎる展開に言葉を失っていたら、
「とりあえず、近々その編集長紹介するわ。それから考えてみて、これからのこと。」




数日後に連絡をくれるとゆう約束をして、京果の店を後にした。

まだ仕事まで時間があったので、表参道を原宿の方へ歩く。

久々に歩くこの道は、知っている景色では無くなったが、秋の空気と天気の良さでぶらぶらするには気持ちが良かった。

時折、ショーウィンドウのガラスに映る自分を見掛けると、さっきの京果の言葉が嘘みたいに感じる。



(こんな私がモデル。この年で?)


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