蒼いパフュームの雑音
9.極彩色
濃厚過ぎる一日から、丁度一週間が過ぎた金曜日の夕方。

京果からメッセージが届いた。

『オツカレサマー。明日の午後時間ある?前に言った編集長紹介したくて。ランチでもどう?』

もちろん返事はOKだ。

もう何にも躊躇しない事に決めたんだ。
自分を、運命を信じて進んでみようと。




5時の六本木。

まだ日も落ちきって無いというのに、もう酔っ払っている人もいる。

そんな人を見ると、金曜だって事を思い出す。


「おはよーございまーす。」

静かできちんと掃除された店内。
タバコと酒の臭いがまだ残っていて、そこに女達の香水が混ざり、独特の香りになる。


10時を過ぎた頃。

「紅さん、ご指名です。」
「あ、はい。」

呼ばれて席に向かうと、いかにも怪しい帽子を深くかぶった男が2人、座っていた。

「こんばんはー…紅ですー。」
「こんばんはっ。」
「あっ!」

隣に座って顔を見て思わず声を上げてしまった。

そこには、軽く変装した緋色と克哉が座っていた。

「よ!冷やかしに来たぞ。」

「紅ちゃん、どーも。はじめまして…かな?」

繰り返しの日々の景色に、二人の登場はあまりにも非現実だった。

「何でも飲んで!今日は克哉先生のご馳走だからねー!あ、紅ちゃんオススメの子呼んでよ。」

ワケがわからない間に、テーブルにはフルーツやシャンパンが所せましと並び、克哉の隣には楓を呼んだ。

「緋色さん、どうしたんですか?」
「近所にね、よく行くバーがあってさ。克哉と飲んでたのね。で、帰りにタクシー拾おうと歩いてたらさ、ここの看板見て、紅ちゃんが言ってたの思い出したわけ。びっくりした?」
「びっくりしました……」 

少しだけ店内がざわついている。

そりゃそうだ。
金曜日の夜、それも一番混む時間に、earthの二人が普通にキャバクラにいるんだから。

「紅さん、お願いします。」
「え?あー、はい。」

同じ客の所にずっと居るのが居心地悪くて、いつもは他で指名が入るとほっとするのに、今日だけはここにいたかった。

「え?え?他で指名入っちゃったの?なんだよー、紅ちゃん人気なんじゃん。」

私は後ろ髪引かれる思いで、席を後にした。
遠くで、緋色達が楽しそうに会話しているのが見えた。

そして、緋色達の席に戻った時は、もう12時を迎えようとしていた。

緋色の席には、溢れんばかりの女の子が座っていた。
余っていた女の子、全て指名したようだ。

「おー!おかえりー!」
「ねーねー、紅さん!この後みんなでカラオケ行こうって話になってるんです!紅さんも行きますよね?」
「えー?だって、大丈夫なの?」
「大丈夫。僕が今さら沢山の女の子と遊んだって誰も驚かないから、ねー!」

なんだか面倒な事にならない事を祈りながら、緋色達は先に店を後にし、私達は着替えて指定されたカラオケ屋にゾロゾロと向かった。


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