蒼いパフュームの雑音
歌い終わり、奥のソファーに腰掛けると克哉がにこにこしながら言った。

「紅ちゃんは珍しいね。男みたいに淡白。なのに暖かくて、感情が無いのに、情緒がある歌い方するんだね。」
「感情、無いですか?はは。」
「いや、褒め言葉だよ。クラブ系の音楽にはぴったりのボーカル。」
「ありがとうございます…でいいんですよねぇ?」
「あははっ」


変な言い回し。
感情が無いのに、情緒がある。

初めて言われた。

テーブルのシャンパンに手を伸ばした時に、ドアが開き緋色とさっき出て行った女の子が抱えられて入ってきた。

「ちょっと!大丈夫なの!?」
「飲み過ぎちゃったのかな?」
緋色が次の言葉を発しようとした途端、

バシンッ

抱えられていたはずの女の子が、緋色の頬を振りかぶって叩いていた。

「本当、さいってー!!!」

そう叫んだと思ったら、自分のバックを持って走るようにまたドアの外へ出て行った。
その子と仲の良い数人が後を追うように出て行った。

「ってー、思い切りがよろしい。」

緋色は頬を撫でながら、私の横に座った。
私は、ただボーゼンと見ることしかできなかった。

(何か、こんな事前にもあったな…)

「どんな酷い事をしたの?」
「ん?もしかして妬いてくれるの?」
「違います。」
「ふふ、少し責め過ぎたかなー。」


残された数人の女の子と、楓と私。


楓は他の女の子や辰雄と一緒に、緋色と大騒ぎし、私の隣には相変わらず雄太が座り、Clumsy kissの話を続けていた。



話が好きな男は嫌いじゃないけど、お喋りな男は苦手だ。


太陽が登る頃、ようやく宴は終わり、私は酔っ払った女の子達をタクシーに乗せ送り出した。

全員乗せたところで、緋色が私の手を引き、
「紅は僕が送ってく。」
と言い、雄太の視線を感じながら二人でタクシーへ乗り込んだ。

車の中で緋色が
「紅が一番だからね。」
なんて。


多分、一番の女は何人もいるんだろう。視線を右に向けると、いつの間にか小さな寝息を立ててた。

そして、私の家に着いても緋色は起きる様子も無く、彼の自宅が分からない私はタクシーの運転手さんに手伝ってもらい、どうにか私の部屋に運んだ。

シャワーから戻っても緋色は起きる事は無く、私のベッドで眠っていた。

(困ったな…)


困らせるのが得意なおじさん。

寝顔は昔みたポスターと変わらない。

まつ毛が長くて、優しい口元。

細くて長い指先は、一体何人の女の髪を撫でたのだろう。


ベッドサイドで頬杖を付いて、緋色の寝顔を見ていたらそのまま眠ってしまった。

数時間して、目が覚めてもベッドの緋色はまだ眠っていた。

今日はこれから京果とランチだ。

寝不足の瞼をこすり、私は準備をして、家のスペアの鍵と手紙を書いて部屋を出た。



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