蒼いパフュームの雑音
10.金色
六本木。

首都高沿いの大通りを渋谷方面に向かうと、京果が指定したスタジオがあった。



緋色とはあれから、コンビニで買ったビールを呑みながら川沿いの道を歩いた。


いつも男の人と歩く時は、歩幅を揃えたり、沈黙が続かないように気を使ったりしていたが、緋色は全て私に合わせてくれた。

そのまま、時計の針が12時を超えた頃、緋色はタクシーで帰った。

そして、今日まで何の連絡も無いまま二週間経っていた。

何度も私から連絡しようと思ったが、小さなプライドが邪魔してメッセージを送る事すら出来なかった。



「………さん!……にさん!…紅さん!」
「えっ?あ、は、はい?」

振り返るとそこにはニコニコした雄太がいた。

「ああ、雄太くん。おはよう。」
「携帯とにらめっこして、どうしたんですか?」
「え?ううん、何でもないの。」
「今日はよろしくお願いしますっ!」
「うん、こ、こちらこそ。」


ホテルみたいなエントランスの建物が今日のスタジオだ。

ロビーを入ると受付の綺麗な女の人が、スタジオに案内してくれた。

大きめのドアを開けると、白い猫足のバスルームのセットと、同じく白い天蓋のベッドが用意されていた。

「おはよう!打ち合わせするから、荷物置いたらソファーに集まってー。」

青柳が笑顔で指さしたソファーセットには、京果や咲良、カメラマンなどこの撮影に携わる人達が集まっていた。





この撮影のキーワードは年下。
今流行りの『おとな女子』が特集される。



メイクルームで咲良と久しぶりに会った。
柊と居た頃は月に一度は必ずライブで会ってたから、何だか懐かしかった。

「紅、綺麗になったね。いい恋してるの?」

「いい恋、なのかなー。自信がないのは相変わらず。」

咲良は大げさにため息をつくと、

「まったく。紅は本気になるとダメよね。軽く遊んでるくらいの時のあんたの方が、クールで素敵よ?ま、だからこそ本気になった時のギャップに男が落ちちゃうんだろぉけど。」

「何かそれ、前も言われた。。」

手早くメイクを済ませると、肩をポンと叩き、
「さぁ、新しい紅の始まりよ!胸張って堂々と大人の女を演じて!」

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