蒼いパフュームの雑音
私と咲良、京果が乗ったタクシーは六本木の外れの看板の無い店の前だった。

大きな木のドアを開けると、賑わう店内からおでんのいい匂いが漂ってきた。

先頭を行く京果が店長らしき人と話すと、奥の個室に案内された。


部屋へ入ろうと靴を脱いでいた時、向かいに見えるカウンターに見覚えのある背中が見えた。

そして、その背中の隣に座る細身の綺麗な女の人に青柳が話し掛けていた。




一目でわかった。
緋色とクレハだ。




チクっとした胸の痛みを感じながら、部屋に入り、緋色達が見えない奥の席に座った。

(はぁ。解ってはいたけど、いざ目の前にしちゃうとやっぱり苦しい。)


見えないように奥に座った努力も虚しく、青柳が緋色とクレハをこの部屋に招き入れた。

隣に座った咲良が私の顔色をみて、察したようにメニューを私の前で開いたが、私は緋色の横顔から目が離せなかった。



「…ちゃん。紅ちゃん。」
「あ、はっはい。」
「こちら、クレハ。知っているかな?これから結構絡むことあると思うから。」

少しだけ、負けたくなかった。
背筋を伸ばし満面の笑みで、

「紅です。宜しくお願いします。」

そう言って握手しようと手を出すと、その手を無視し、目線すら合わせずに、

「やっと会えた。緋色から紅さんの話は良く聞いてたの。色んな意味でよろしく。」

トゲのある言葉と冷たい微笑みで、彼女は私に敵対している事はすぐにわかった。

私は無視された右手を引きながら、

「こちらこそ、色々よろしくお願いします。」

ラパーチェで会った友衣奈の時のようにはいかなかった。
この人は心の強さが友衣奈と違う。
私が憧れる大人の女だ。




もう帰りたい。

一度外してしまった目線は、もう上を向けず、ただテーブルに並んだ料理やお酒を見つめることしか出来なかった。

注がれたビールの泡の向こうに、緋色とクレハがぴったりとくっついているのが見えた。

耐えられなくなった私は、化粧室に逃げ込んだ。

(ひどい顔…。)

鏡に映った自分の姿が醜かった。

でもどうしたらいい?
どっかの誰かみたいに泣いてわめいて宣戦布告すればいい?

今の立場でそんな事出来ない。

緋色も緋色だ。
あんないい事言っておいて、ほったらかし。
私が居ても話しかける事もない。

そんな人の為に二週間、そわそわしてたと思うと頭にくる。

大きなため息と共に外に出ると、雄太がタバコを吸っていた。

「あ、だ、大丈夫ですか?」

慌ててタバコを消しながら声をかける雄太に、少しだけ気持ちが和らぎ笑みがこぼれた。

「あ、良かった。いや、余計なお世話だとは思ったんですが、この間緋色さんと帰られたんで…」

「ありがとう。でも意外ー、雄太くんタバコ吸うんだね。」
「や、辞めてたんですよ。でも最近復活しちゃって。いやぁ、肩身が狭いですよね。」

優等生だと思っていた雄太の意外な一面だった。 

「タバコ、ちょうだい。」
「え?紅さん吸うんですか?」
「私もずーっと止めてたけど、今吸いたい。」

雄太はニコッと笑うと、1本差し出した。

「あーあ、もうせっかく止めてたのにねー。」
「本当ですね…紅さんのせいですよ。」
「?」
「僕、紅さんのこと好きです。付き合ってもらえませんか?」
「え?ッゲホッ、ゲホッ」

突然の告白に、むせた私をみて雄太は慌てて

「す、すみません!飲み物持ってきますね。」


(何今の?告白?このタイミングで?)
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