蒼いパフュームの雑音
2.橙
大阪への旅を明日に控えた金曜日。
夜の仕事も休みを入れて、久々に家で過ごす。
シーツとカーテンを洗って、ベランダにあるお気に入りの椅子に座って、缶を開ける。
「プシュッ」
時計はお昼を指すところ、ギラギラの太陽を浴びながら、早めのビールを頂く。
そう高くないこのマンションからの眺めは、ビルばかりで決して良いとは言えないけれど、
その間に見える空の色とか、肩身の狭そうな木々の緑が揺れてるのを眺めるのが好きだったりする。
二本目のビールを取りに部屋に入ると、テーブルの上で携帯が鳴った。
「もしもし?」
「あー、紅?何してるの?」
電話の相手は柊だった。
「ベランダでビール。」
「はぁー?まだ昼だぞ。」
「いいじゃない。夜の仕事休みだし。それより、珍しいね、こんな時間に。」
「ああ、俺明日、大阪に向かうからさ、紅の予定どんなんかと思ってさ。」
「ライブは行けるかわからないや。未奈とテーマパーク行く約束しちゃったし。」
はっきり言って、またあの面倒に巻き込まれるのが嫌だった。
「えー、寂しいなぁ。紅最近冷たいよな。もうすぐリハ終わるから、晩飯でもどう?」
あ、やばい。また甘えモードだ。
最近は甘えられてロクな事がない。
「ご馳走してくれるなら行くよ。」
いつもカツカツで、お金が無いのは知ってるから、試しに言ってみた。
「紅がそんなこと言うの珍しいっ。いいよ、いつも払ってもらってるし。渋谷のスタジオだから、そっちに行くよ。また電話するっ!」
こちらの返事を聞くまでもなく、柊は電話を切った。
(こっちに来るって。珍しいのは柊じゃない?)
ざわざわとした気持ちになっていた。
せっかくの優雅な休みを、邪魔された気分。
だけど、私に会いに来てくれるとゆう気まぐれに、喜んでいる気持ち。
あの打ち上げでの一件があってから、咲良の言葉やラパーチェの強志さんの言葉が、頭の中で繰り返されている。
優柔不断な男との決別は、思った以上に早く来るかもしれない。
私のダイヤモンドが見つかれば、の話だけど。