美しいだけの恋じゃない
「泣き寝入りなんて、同じ女としてとっても悔しいもの~。ただね、そういった裁判では、当時の状況を根掘り葉掘り聞かれるらしいのよねー」


師岡さんは私の立つ段より一つ下まで移動し、私の顔を覗き込むようにして話を続ける。


「無理強いされたり薬を盛られた訳でもないのに、酒の加減を間違えて酔い潰れて、男に隙を見せたバカな女と、それを利用して性的暴行を加えた凶悪な男の証言が、記録されて後世まで残っちゃうのよねー」


そこで師岡さんは「あ」と呟き、慌てたように口元に右手を当てた。


「ごめんねー?これ、あくまでも世間一般の常識だから。私は須藤さんのことは心から同情してるのよ?頭も下半身も弛い女って、ホント、普通のまともな倫理観を持った女性と比べると、人生の中で余計なハンデを背負う事になるんだな~って思って」

「いい加減にしろ!」


何も言えず、ただただ身を縮こませているだけの私に代わり、門倉保が怒声で師岡さんを制した。


「ざまぁないわね」


しかしそれには全くひるまず、彼女は顔面から笑みを消すと、思い切り侮蔑を含んだ表情と声音で私を見据えたまま言葉を吐き捨てた。


「『ベテランだと思ってるならそれに見合う立ち居振舞いをしろ』だったっけ?私に上から目線で説教してくれちゃってたけど、そんなん言えるような御大層な身分じゃないだろうっつーの。あの男といいあんたといい、勘違いも甚だしいわ」
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