美しいだけの恋じゃない
「いや、それはっ…」

「言い訳は結構です」


彼の発言を強い口調で制したあと、壁に左手をつき、ゆっくりと立ち上がる。


打ちのめされ過ぎて、二度と這い上がれないのではないかと思っていたのだけれど、両の足は意外とすんなり体を持ち上げ、支える事ができた。


目の前に門倉保がいるからだ。


この男にこれ以上弱々しい姿を見せたくなんかなかったから。


つくづく、怒りのエネルギーは偉大だと実感する。


「やっぱり思った通り、正真正銘、あなたは最低な人でした」


そう捨て台詞を残し、私はその場からよろよろと歩き出した。


師岡さんと同じく、そのまま階段を使って階下を目指す。


最初は覚束なかった足取りは徐々に力強くなり、そして速さも増し、途中からは駆け足になっていた。


しかし3階の踊り場まで到着した所で、ハッとしながら足を止め、腹部を押さえる。


すっかり忘れていた…。


階段を駆け降りるなんて、なんて危険な真似をしてしまったんだろう。


途中足がもつれて転んだりしたら、一体どんな事態になっていたか…。


心底ゾッとし、そこからはそろそろと慎重に歩を進める事にした。


今の段階では真相はまだ分からないけれど。


でも、万が一、そうであった場合に、無茶をしたりしたら自分の体に多大なる負担を強いる事になる。
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