美しいだけの恋じゃない


午後の勤務を終え、家に帰り、家事をして食事をしてお風呂に入って床に着き、再び朝を迎えた。


しかしそれらは無意識下で行っていた事で、それだけの時間を過ごした実感は自分にはない。


気が付いたら日付が変わっていた、という感覚だった。


仕事もプライベートもイレギュラーなイベントは何もなく、多少上の空でも支障なくこなせてしまったのだった。


あの後、階段室でチラリと話に出ていた通り、中途半端な時間に外回りから帰って来た門倉保は昼休憩を30分遅らせ、13時半から午後の勤務に入った。


つまりその時間から私の対面の席に着いたという事だ。


得意先の都合で動く営業マンにとって、他の者と休憩のタイミングがずれるのは良くある事だった。


しかし15時からは別の得意先との打ち合わせが入っていたので、その準備の為に一時間ほどデスクワークをこなした後、再び外出し、そのまま直帰となったので、それ以降は顔を合わせる事はなかった。


ただ…。


普段は彼が目の前から居なくなれば、とてもリラックスした状態で過ごせるというのに、昨日はずっと心が休まる時はなかった。


決してこちらから視線を向けたりはしなかったけれど、同じ空間内に師岡さんが存在しているという事自体が私に常時ダメージを与え続けていたのだ。
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